Yahoo!ニュース

ガラパゴス諸島で「乱獲」中国巨大漁船団――米国の「次はあなたの海に向かっている」警告に困惑のペルー

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
ガラパゴス諸島で操業する中国漁船=英紙ガーディアンより筆者キャプチャー

 南米エクアドル領ガラパゴス諸島の周辺海域で海洋資源を乱獲していた中国漁船が最近、さらに南下し、次はペルー海域での操業を試みているようだ。米国側は「中国漁船は300隻以上、船名を変え、全地球測位システム(GPS)追跡機能を停止している」と警告しているが、中国側は「国際法を順守している」と突っぱねる。ペルーも重要なパートナーである中国に配慮して反応は控えめだ。

◇米中双方の駐ペルー大使館が攻防

 英ガーディアン紙は9月25日、「中国の巨大な漁船団がガラパゴス諸島からペルーの領海に向かって南に移動している」と伝えた。

 同紙によると、米国の駐ペルー大使館が9月下旬、スペイン語で「300隻以上の中国籍の船が、船名を変え、GPS追跡機能を停止した状態でペルーに向かっている」とする警告をツイートした。

 ツイートはさらに次のように訴えかけた。「(中国漁船による)乱獲は生態学的および経済的に大きな被害をもたらすものだ。ペルーはそのような損失を許容するわけにはいかない」

 これに対し、中国の駐ペルー大使館もツイートで反論した。

「船団は国際法を尊重している。ペルーの関連法規を厳守し、公海での操業に限定している」

 こう主張したうえ、ペルー国内に向けて「虚偽情報に惑わされないよう願う」と呼び掛けた。

 同紙は「ペルーが米中間の外交的な論争に引きずり込まれた」とみている。ペルーにとって米中両国は二大経済パートナーであるため、板挟みにされた状態だ。

 ペルー外務省は「中国船団が明らかにペルーの領海外にいることが証明されている」との見解を示した。そのうえで米大使館の「不正確な」ツイートに違和感を表明し、中国側に配慮する姿勢を示した。

 同時に「ペルーは主権と天然資源を守り、違法な漁業をしっかりと阻止・抑制・撲滅させる」とも表明し、中国漁船の動きをけん制している。そのうえで米中両国に、対話を通じて立場の違いを埋めるよう促した。

◇中国漁船の完全な監視は不可能

 中国漁船をめぐっては、中国近海の漁業資源が枯渇していることから、船団は競って、より遠方の海域を航行する傾向がある。

 漁業活動を追跡する国際海洋保護団体オセアナのデータ分析によると、ガラパゴス諸島領海の南限で7月13日~8月13日、数百隻の中国船団が操業した際、わずかひと月で計7万3000時間の操業を記録し、数千トンの漁業資源を獲ったという。これはガラパゴス海洋保護区(絶滅が危惧されている海洋生物や、魚類の繁殖地などの地形の保全を目的に設けられた区域)周辺の漁業活動の99%を占めているという。エクアドル政府が周辺国や米国を巻き込んで懸念を表明した結果、中国政府は自国漁船に3カ月間の操業禁止を命じた。(参考資料:中国漁船がガラパゴス周辺でフカヒレ乱獲――それをやめさせ「高く評価された」と宣伝する中国外交の神経)

 エクアドルの海軍作戦指揮官は、米政府系放送局「ボイス・オブ・アメリカ(VOA)」(9月25日)に「今年の中国船団は過去数年よりも規模が大きい」と指摘する。VOAが伝えた海外開発研究所の調査結果によると、遠洋漁業に携わる中国船の総数は1万7000隻に近くに上るとされる。他国の規模をはるかに上回っており、完全な監視はほぼ不可能という。

◇多くが違法・無報告・無規制

 さらに深刻なのは、こうした中国漁船の多くが「IUU漁業(違法・無報告・無規制)」とされ、沿岸各国の主権を脅かし、国際社会の食糧安全保障や海洋生態系を危険にさらしているのだ。

 カナダ・ブリティッシュコロンビア大学海洋漁業研究所のスマイラ教授はVOAに対し「中国は強力で効果的な反IUU漁業政策を欠いているだけでなく、燃料補助金など、多くの有害なものを提供している」と述べ、中国側の対応を批判している。

 ペルー、エクアドル両国ともに大規模な漁船団を有し、国内経済の活性化や外貨獲得のための有力な手段としている。世界銀行のデータによると、漁獲量はペルー約380万トン、エクアドル約70万トンで、合わせて約450万トン。この数字は中国の漁獲量の4分の1にすぎない。

 ペルー、エクアドル両国のような開発途上国は、海洋権益を保護する力が十分ではない。エクアドル海軍は8月、米沿岸警備隊の力を借り、国際海域とエクアドル海域に船を出して中国漁船の動きを監視してきた。

 トランプ米大統領も9月22日の国連演説で中国漁船に言及し、「中国は毎年、何百万トンものプラスチックやゴミを海洋に投棄し、他国の水域で乱獲し、広大なサンゴ礁を破壊している」と批判している。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

西岡省二の最近の記事