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いまも“新型コロナ感染者ゼロ”主張は北朝鮮とトルクメニスタンの「独裁」2カ国と島国12カ国

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
WHO公式サイトに表示される北朝鮮とトルクメニスタンの「感染ゼロ」=筆者一部加工

 新型コロナウイルス感染者が全世界で3000万人を超える状況にありながら、世界保健機関(WHO)に「感染者ゼロ」と報告しているのは9月22日の時点で14カ国。北朝鮮と中央アジアのトルクメニスタンの2カ国と、太平洋の島国12カ国だ。4月10日時点で「感染者ゼロ」報告は少なくとも17カ国だったため、この間に3カ国に感染が広がった形だ。ただ、北朝鮮とトルクメニスタンは独裁体制によって情報が統制されており、「感染者ゼロ」報告の信頼性には依然、疑問が残る。

◇北朝鮮

 金正恩朝鮮労働党委員長が7月25日、緊急招集した党政治局非常拡大会議で「新型コロナウイルスが流入したとみられる危険な事態が発生」と言及した。感染が疑われたのは、韓国から同19日に北朝鮮・開城に帰郷した元脱北者だった。これをもとに海外メディアは「感染の疑いを初めて認定した」と伝えた。

 ところが、党機関紙・労働新聞は同30日付で「いまだにわが国ではただ1人の感染者も発生していない」と従来の主張を展開した。韓国側も「元脱北者が残した服や所持品を検査したが、新型コロナは検出されなかった」と断定した。さらにWHO当局者は8月6日、「北朝鮮側の検査では、元脱北者の感染の有無は結論が出なかった」とした。

 現時点でも、元脱北者の確定診断は伝えられず、感染実態は伏せられたままだ。

 WHO当局者は同28日、米国のラジオ放送「ボイス・オブ・アメリカ」(VOA)に「20日現在2767人が新型コロナの検査を受けた」「全員が陰性判定だったとの通知を受けた」と伝えている。韓国紙・朝鮮日報(8月31日)は北朝鮮国内での新型コロナの防疫態勢に関連し、「(金委員長の実妹の)金与正党第1副部長が防疫司令官を務めて指揮を取っている」「極めて強硬な対応を続けている」と伝えている。

 一方、8月下旬の段階で、脱北者団体「北朝鮮人民解放戦線」が、北朝鮮の新型コロナによる死者が267人と主張するなど、「感染者ゼロ」に対する否定的な見方が根強い。

◇トルクメニスタン

 北朝鮮と同様、トルクメニスタンではベルドイムハメドフ大統領の個人崇拝と厳しい情報統制が敷かれている。

 トルクメニスタンは、陸続きの四つの隣国(イラン、アフガニスタン、ウズベキスタン、カザフスタン)で計65万人以上の感染が確認されるなか、9月22日現在で国内感染者はいないとしている。もちろん、公式発表には疑いの目が向けられている。

 独立系ニュースサイト「トルクメンニュース」(本部・オランダ)は9月7日に人気アコーディオン奏者が新型コロナが原因で死亡したと伝えた。同サイトは「不完全」としながらも「トルクメニスタンの市民38人の死亡を確認した」と伝えている。

 7月の時点で、ベルドイムハメドフ大統領の姉が新型コロナに感染して治療中だと一部メディアで伝えられ、その夫は既に死亡しているともいわれる。

 同国保健省はマスク着用を義務づけているが、その理由として「大気中のちりの増加」を挙げ、新型コロナ対策ではないとしている。

 当局は公共の場での新型コロナウイルスに関連した話をすることを禁止し、「新型コロナ」に言及しただけで私服警官に摘発されるそうだ。

◇未確認の島国12カ国/感染が確認された3カ国

 感染者未確認の島国12カ国はキリバス、クック諸島、サモア、ソロモン諸島、ツバル、トンガ、ナウル、ニウエ、バヌアツ、パラオ、マーシャル諸島、ミクロネシア連邦。太平洋の島国ということもあって、大陸や大陸近くにある国よりも国境封鎖が容易とされ、新型コロナの流入を防ぐことができているとの分析がある。ただ封鎖措置が長引けば、経済への致命的な打撃が心配される。

 一方、4月10日以後で感染が確認されたのは、中央アジアのタジキスタン、アフリカのコモロとレソトの3カ国。9月22日時点の感染状況はタジキスタン(感染者9346人、死者73人)、コロモ(感染者470人、死者7人)、レソト(感染者1390人、死者33人)となっている。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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