Yahoo!ニュース

こわもて「戦狼」大使の“スキャンダル”を「こちらこそ被害者」と切り返す中国流の火消し術

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
問題視された劉大使のツイッター=THE Sunのウェブサイトより筆者キャプチャー

 中国の劉暁明駐英大使の公式ツイッターで、性的描写のある成人向けコンテンツに「いいね!」が押され、8万人を超えるフォロワーに拡散された。劉大使は、新型コロナウイルス感染拡大や香港、ウイグルなど、中国に関わる問題で、自国の論理を声高に叫ぶ人物として知られる。この「戦狼外交」の筆頭格をめぐる“スキャンダル”だけに、中国当局は劉大使側の不手際としてではなく、「攻撃を受けた」と切り返して火消しを図っている。

◇「みだらな妻の日常」に「いいね!」

 米有力紙ニューヨーク・タイムズなどによると、劉大使の公式ツイッターで9月8日、「騒妻日常(みだらな妻の日常)」と称するアカウントの投稿に「いいね!」が付けられていたことが確認された。

 そこには「幸運で、優れた独身男性、まずはウォーミングアップを」という文言とともに、女性とみられる人物が黒いストッキングを履いた脚で性的行為にいそしむという成人向け動画がアップされていた。

 この「いいね!」は劉大使のフォロワー8万3000人強に拡散されたとみられる。大使側は9日の段階で、問題視されたものを含む計20近い「いいね!」を一度に削除している。

 英大衆紙最大手サンは同日、「扇動家の劉暁明氏は、香港や新型コロナウイルス、ウイグルの問題に関して自国の論理をまくしたてる。だが、きのうの深夜には、彼はより個人的な精読のためにSNSを使っていた」という皮肉を込めた記事を掲載した。

 この事態を受け、中国の駐英大使館は同日中に、報道担当者の名前で次のような声明を発表した。

「最近、反中国勢力の一部が、劉暁明大使のツイッターアカウントを、悪意を持って攻撃し、卑劣な手法を用いて大衆を欺いた。大使館はこのような忌まわしい行動を強く非難する」

 つまり、劉大使のアカウントが「反中国勢力によってハッキングされた」と主張したのだ。

 こう表明したうえ「大使館はこれをツイッター社に報告し、ツイッター社に徹底的な調査と、この問題を真剣に処理するよう求めた。大使館はさらなる行動を取る権利を留保し、庶民がそのような噂を信じたり広めたりしないよう望む」

◇英国拠点に「戦狼外交」

 劉暁明氏は1956年、広東省出身。大使館のウェブサイトによると、大連外大を卒業後、改革開放前の1974年に外務省入り。ザンビアや米国などの勤務を経て、2006~10年、駐北朝鮮大使を務めた。北朝鮮離任に際し、金永南・最高人民会議常任委員長(当時)から「(北朝鮮)親善勲章第1級」が授与されている。その後、英国に転出した。

 中国は最近、自国批判に対して恫喝的・攻撃的に反論する「戦狼外交」を展開している。劉大使や趙立堅・外務省副報道局長はその象徴的外交官であり、SNSに自国の主張を盛んに書き込んでいる。

 中国ではネットは厳しく規制されており、通常、ツイッターにはアクセスできない。だが外交官はその利用が認められ、自国の政策を英語で発信する例が増えている。(参考資料:外交官に「戦う精神」/政治広告「爆買い」――新型コロナ対策 恐るべき中国的SNS外交)

 中国が7月に香港の国家安全維持法を施行したのを受け、英国は香港市民に英国での市民権を認める意向を示した。その時、劉大使は「英政府が無責任な発言を繰り返している」「重大な内政干渉」と強く非難していた。

 また7月19日に英BBCのニュース番組に出演した際には、中国の新疆ウイグル自治区でウイグル人が目隠しされて列車に乗せられる映像の確認を求められ、「何の映像かわからない」と述べる一方で、話題をかえて「あなたは新疆に行ったことがあるか? 新疆は最も美しいところだ」などと語り出したりして、英国内外で強い批判を浴びていた。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

西岡省二の最近の記事