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賭博好きの中国人、特に富裕層よ、その都市に行ってギャンブルをしてはならぬ――中国がマネー流出防止策

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
フィリピンのオンラインカジノについて伝える米CNNウェブサイト=筆者キャプチャー

 中国政府は8月下旬、カジノのある外国の都市への自国民の渡航を制限する「ブラックリスト制度」を立ち上げたと発表した。都市名は明らかにしていないが、マニラ(フィリピン)など東南アジアの観光地を念頭に置いているとみられる。背景には、富裕層の資金が海外カジノを通じて流れ出していることへの危機感があるようだ。

◇“マカオの回復”に資する

 中国本土では国営の宝くじを除き、オンラインカジノを含めすべてのギャンブルが違法となっている。カジノが許されるのは、中国の特別行政区であり世界最大級のカジノ都市のマカオに限られている。

 ただ、そのマカオでは、中国人富裕層が遊戯ではなくマネーロンダリング(資金洗浄)目的でカジノを利用する例が少なくなく、「反腐敗」を掲げる習近平政権の発足後は監視が強化されてきた。この結果、富裕層はフィリピンやベトナム、シンガポール、カンボジアなどに開設されたカジノを使うようになり、大量の資金が流れ出た――という経緯がある。

 米国のカジノ専門サイトによると、フィリピンなどには「ギャンブルのチャイナタウン」が出現し、中国人が居住してツアー客をもてなしているという。中国人客が持ち出した資金の多くが洗浄されているほか、コミュニティーが地下社会とつながっているため、身代金目的の誘拐や殺人などの事件も多発しているようだ。

 こうした背景などから、中国文化観光省は8月27日、「ブラックリスト制度」創設を発表し、そこに記される都市への渡航を制限するという措置を打ち出した。同省は「海外の一部都市は、カジノを開設することで中国人旅行者を呼び込み、中国の海外旅行市場の秩序を乱し、中国人の財産や安全に危害を及ぼしている」と批判している。

 現時点では「ブラックリスト制度」の詳細は明らかにされていない。カジノの目的地への渡航調整や賭け金の融資などを手掛ける「ジャンケット」も措置の対象となる可能性がある。

 一方、マカオはこの「海外の一部都市」には含まれないため、他都市への渡航規制はマカオにとって追い風となる。新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて売上が大きく落ち込んでいるだけに、需要回復の一助になると期待が高まっている。

◇フィリピンで中国系オンラインカジノ乱立

 今回の「ブラックリスト制度」には、中国人客を対象とするオンラインカジノへの警告も込められているようだ。

 オンラインカジノは、例えばマニラなどのオフィスビルの一角にカジノ用のスペースを整え、ディーラーとテーブルの映像をインターネットで配信する。中国人客とは携帯電話などで連絡を取って掛け金を受け付ける方法という。この多くが中国人によって運営され、そこで働いているのも地元住民ではなく中国人だという。

 中国政府はインターネットを検閲しているため、中国国内からのオンラインカジノへのアクセスは困難だ。このため富裕層は外国に渡航したり、あるいは国内にいながらも何らかの方法で検閲を突破したりしてアクセスしているとみられる。

 その中国人向けオンラインカジノの多くも東南アジアの各都市を拠点にしている。

 フィリピンでは国が監督業務を民間業者から引き継いで以来、オンラインカジノ業界の景気が良くなり、マニラのオフィス賃貸市場も活況を呈しているという。ほとんどが中国市場をターゲットにし、ウェブサイトや広告には中国語が使われている。

 一方でオンラインカジノに対する監視は難しく、違法サイトも横行。就労ビザのない中国人も大勢働くようになり、フィリピン当局は昨年9~10月には1000人以上の中国人を摘発している。

 このオンラインカジノを通しても中国側から多額の資金が流出しているとみられ、中国側は警戒感をあらわにしていた。

 中国の習近平国家主席が昨年8月、フィリピンのドゥテルテ大統領と北京で会談した。香港の有力英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストなどによると、中国側はこの時、フィリピンにおいて不正に関与している中国人への取り締まりを強化するよう求めたが、フィリピン側は国内経済や雇用への影響を理由にこれを拒否したという。

 オンラインカジノはフィリピンの大きな収入源になっており、ドゥテルテ氏も後日、「オンラインカジノ産業がもたらす利益を考えれば、わが国には必要なものだ」との見解を示したという。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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