欧州在住の中国人オペラ歌手、劉克清氏の動画チャンネルがブロックされた問題で、劉克清氏が香港メディアの取材に対し「チャンネルの問題は解決された」と明らかにした。習近平・中国国家主席をほうふつさせるプロフィール写真を別のものに差し替えた結果、問題なしと判断されたという。中国で習主席の一強体制が続くなか、当局がそのイメージ管理に神経を尖らせている様子がうかがえる。

◇「その写真、使うべきではない」

 劉克清氏は2019年9月、中国企業が開発・運営するショートビデオのプラットフォーム「抖音(TikTok)」にチャンネルを開設。美しい声で歌う方法を指導するビデオを公開し、37万人を超える賛同を得るほどに人気を博していた。ところがチャンネルが突然閉鎖された。(参考資料:「あなたは習近平主席にそっくりすぎる」――顔を問題視されてアカウントを閉じられた中国オペラ歌手)

 劉克清氏は5月10日、SNS上で視聴者に対し、「私の抖音チャンネルにあるプロフィール写真が『規則違反ではないか』と通報され、閉鎖されました」「現在、審査の結果を待っています」と状況を説明した。「画像違反とされたのは今回で3回目になる」とも付け加えた。

 ただ、ほどなくしてチャンネルは復活したようだ。

 香港ケーブルテレビは5月13日、ウェブサイト上で、劉克清氏へのインタビュー動画を配信した。その中で劉克清氏は次のような見解を示している。

「(通報者が)私の写真を他の人のものと勘違いして『このプロフィール写真は使うべきではない』と考えたのだと思います。彼ら(抖音側)も私に『使えない』と言ってきました。“これは、勘違いされたな”と感じましたね」

 プロフィール写真を、“習主席似”のものからコンサート時に撮影されたものに変更したところ「問題なし」と判断されたという。

 ただインタビューの際、ケーブルテレビ側が「あなたの写真はいったい誰に似ているのか」と改めて確認を求めたが、劉克清氏はその問いに答えようとしなかったそうだ。

 劉克清氏は1989年以来、欧州で活動し、最近はドイツに住んでいる。新型コロナウイルスの集団感染が最初に起きた中国湖北省武漢の市民らを励ますため、今年1月下旬に曲を作った。

武漢市民を励ます歌を弾き語りする劉克清氏(香港ケーブルテレビのウェブサイトより筆者キャプチャー)
武漢市民を励ます歌を弾き語りする劉克清氏(香港ケーブルテレビのウェブサイトより筆者キャプチャー)

 香港ケーブルテレビの取材を受けた際、劉克清氏は「体は海外にあっても、心は依然、祖国とつながっています。我々はいつも祖国のためにあります。すべての力を使って、あなた方のために歌います」と言って、その曲をピアノで弾き語りした。「ああ、武漢! 私たちはあなたのために歌う ああ、武漢! あなたは私たちの希望だ」

◇「イメージを傷つける恐れ」徹底排除

 中国では習主席の「神聖化」が進む。共産党最高指導部の中でも習主席だけは「核心」と呼ばれ、別格の指導者であることが強調されている。新型コロナウイルス感染に関連した記者会見でも、発言者はほぼ「習近平同志を核心とする党中央」という表現を使い、忠誠の気持ちを前面に押し出している。

 一方で、尊厳を傷つける情報や行為は徹底的に排除される。

 今回の件でも、仮に、習主席を思わせるプロフィール写真を野放しにして、それが原因で習主席のイメージが損ねられるようなことになれば、抖音側にも処分が及ぶ恐れがある。抖音側がチャンネル閉鎖に踏み切ったのも、こうした事態を避けるために事前に手を打ったのではないか。

 ちなみに、中国のネット上で今回の件に関する書き込みは見当たらず、中国最大の検索エンジン「百度」で検索してもヒットしない。劉克清氏の件を伝えた香港ケーブルテレビの報道も、閉鎖の事実は伝えたものの「習近平国家主席」という固有名詞は扱われていない。このため筆者はこの件に関する情報を主に、中国政府に批判的な論調で知られる香港紙「リンゴ日報」や台湾メディアから得ている。

 習主席の一強支配の裏で、それに対する不満もくすぶる。

 上海で2018年7月、30歳前後の女性が、立て看板に描かれていた習主席の顔に墨をかけて「習近平の暴政に反対する」と声を荒げ、その様子を撮影した動画をSNS上にアップする“事件”が起きた。

 中国本土で習主席を公然と批判するのは極めてまれであり、そのイメージを汚す行為は中国社会に強い衝撃を与えた。このあと、各地で類似の行為が相次いだようで、当局は習主席の看板を一時的に撤去するよう指示したとも伝えられた。

 動画をアップした女性はその数時間後、行方がわからなくなった。中国の人権問題支援情報サイト「維権網」などによると、女性は法的根拠を示されないまま当局に事実上監禁され、昨年11月に解放された際には失語状態で全身がむくんでいたという。親族は「全く別人になった」といい、何らかの薬を過剰に投与された可能性も指摘されている。