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金正恩氏「重病説」一蹴――健在誇示の「高笑い」

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
金委員長の動静を伝える労働新聞(筆者キャプチャー)

 北朝鮮国営の朝鮮中央通信や朝鮮労働党機関紙・労働新聞は2日、金正恩朝鮮労働党委員長の動静を写真付きで報じた。金委員長をめぐっては一部メディアが「重病説」を流したことで様々な憶測を呼んだ。20日ぶりに金委員長の公開活動が報じられたことで「健康異常説」をめぐる論議はひと段落しそうだ。

◇いつもの姿

 労働新聞によると、金委員長は1日、平壌に近い平安南道で開かれた「順川リン酸肥料工場」竣工式に出席した。式典で金委員長がテープカットすると、参加者から「万歳!」の歓声が上がり、金委員長は手を振って応じたという。労働新聞は紙面の1~2面を割き、写真計21枚を使って竣工式の様子を詳細に報じた。

 公式報道を見る限り、金委員長の外見に特段の変化は見られない。金委員長は黒い人民服姿で、いつもの頭髪だ。笑顔の写真が多数掲載され、普段通りに動き回っている印象がある。

 今後、朝鮮中央テレビなどで映像が公開されるとみられ、さらに詳しい分析ができそうだ。一方、4月15日の太陽節(祖父・金日成国家主席の生誕記念日)に金委員長が錦繍山太陽宮殿を参拝しなかった点についてはさらなる検証が必要だ。

◇実妹の存在感

 一方、この竣工式の写真で注目されるのが、金委員長の実妹、金与正氏(党組織指導部第1副部長)の立ち位置だ。

ひな壇で金委員長の横に座る金与正氏(労働新聞より筆者キャプチャー)
ひな壇で金委員長の横に座る金与正氏(労働新聞より筆者キャプチャー)

 竣工式で朴奉珠党副委員長が竣工の辞を述べている写真では、金与正氏がひな壇の上で、金委員長と金徳訓党副委員長の間に座っているのが確認できる。職責上の序列では、金徳訓氏が金与正氏よりも上だが、檀上では金与正氏の方が上位にランクされ、金委員長の最側近扱いされているのだ。本来、この場所は序列2位の崔竜海・最高人民会議常任委員長が座る場所だが、この日は崔竜海氏の姿は見当たらなかった。

◇「正面突破戦」推進

 順川リン酸肥料工場は金委員長が今年初めて現地指導をする対象に選んだ重要な施設だ。北朝鮮はこれまで、食糧問題を解決するためのカギとなる肥料を自前でまかなえず、中国などの輸入に頼ってきた。今回、その肥料の生産拠点の立ち上げにこぎつけた形で、北朝鮮は今後、この施設を「正面突破戦」の成果と位置付けて内外にアピールしていくと考えられる。(参考資料:新型コロナで正恩氏の「正面突破戦」が窮地に 中国からはしごを外された観光誘致)

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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