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喜びの陰に「第2波」の恐れ――期待と不安の武漢「新型コロナ」封鎖解除

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
封鎖措置解除を歓迎してライトアップされる武漢中心部(中国新聞網の動画より)

 中国湖北省武漢市で8日、事実上の封鎖措置が76日ぶりに解除され、市民の間に喜びの声が上がった。国営メディアは封鎖解除をショーアップして伝えるとともに、習近平国家主席がリーダーシップを発揮した点を強調した。ただ武漢には大勢の無症状感染者がいる恐れがあり、ウイルス感染「第2波」への警戒も呼びかけられている。

◇封鎖解除の報道劇

 中国の主要メディアは武漢の封鎖解除の様子を詳細に伝えた。このうち中国新聞網は「封鎖解除の瞬間」という短編の動画を放映した。

 高速道路の「武漢西」インターでセレモニーが開かれる。「武漢からの道路を封鎖解除」という電光掲示板の前で、地元幹部が「解除を宣言する」と声を張り上げると、拍手が巻き起こった。

「武漢西」インターで開かれた封鎖解除のセレモニー(中国新聞網の動画より)
「武漢西」インターで開かれた封鎖解除のセレモニー(中国新聞網の動画より)

 大時計が8日午前0時を指す。

 高速道路の料金所が開き、車が次々に出て行くと、報道陣がダーッと駆け寄ってその様子を撮影した。

 都市部の建物が色とりどりにライトアップされ、そこに鐘の音が鳴り響く。黄金色に染まった船が汽笛を鳴らして、封鎖解除を印象付けた。

 中国での新型コロナウイルスによる死者の8割を武漢が占める。武漢から感染者が出て行かないようにするため、当局は1月23日に封鎖し、他の都市と結ぶ航空路線、高速鉄道、高速道路、地下鉄、バスなどの公共交通機関をとめた。

 封鎖の結果、新たな感染者が出ない日が増えたため、3月下旬から市内の公共交通機関の運行を順次再開してきた。

 中国メディアによると、7日時点での切符の販売状況から判断すれば、8日だけで約5万5000人の乗客が武漢を離れる計算という。武漢天河空港も再開され、三亜(海南省)に向かう中国東方航空便が最初のフライトとなった。航空当局によると、8日だけで約1万人が航空機を利用すると見込んでいる。

 ただ、武漢から首都・北京への移動は制限され、武漢―北京の直行便の再開は見送られた。武漢から北京に入れば、2週間の隔離措置となる。北京では全国人民代表大会(全人代=国会)の延期が続いており、開催に備えて警戒を強めているとみられる。

 封鎖解除に際し、湖北省トップの応勇・共産党委員会書記は幹部らに対し「交通管制の解除が(新型コロナウイルス感染の)予防・管理措置の解除を意味するものではない」と訓示し、警戒を緩めないよう指示した。

 封鎖解除前日の7日、国営新華社通信はコラムの中で「習主席は常に武漢のことを心配し、感染拡大防止と経済・社会の発展のため、昼夜問わず働いている」として、習主席の武漢視察などを改めて紹介。習主席の指導のもと、共産党員が感染拡大防止に向けて「勇敢に戦った」点を強調した。

◇喜びの一方で不安の声も

 中国新聞網は封鎖解除後の市民の声を集めた。

「とてもうれしい。2カ月以上も家に閉じ込められていました。みなさん、悶々としていたので、心理状況が良くなったはずです。感染状況がどうなるかについても、まずは楽観視しています。(封鎖解除後には)職場に行って、一生懸命に働きたいです」(百貨店の化粧品売り場で働く女性)

「とても興奮しています。封鎖が解かれ、ものすごくリラックスしています。武漢は英雄の都市であり、武漢市民も英雄の市民です」(買い物中の女性)

「感染状況がかなり改善されたと感じています。これほど早く封鎖が解かれるとは、想像できませんでした」(若い女性)

「長い間、外に出られなかったので、旅行をするような感覚です。私たちはウイルス感染との戦いに勝つと固く信じていました。そして本当にそれをやり遂げたんですよ。私たちは武漢の状況が一歩一歩良くなっていると感じています」(若い男性)

 中には「まず職場復帰のための申請手続きからやらなければならない」と不安げに話す企業管理職もいた。

 筆者が連絡を取っている武漢在住の王海霞さん(20代女性、仮名)は、7~8日の日記にこうつづった。

「7日夜です。今夜、武漢人は“大晦日”を迎えることになりました。武漢よ、今夜私たちはあなたとともに再起動します。カウントダウン」

「76天、再見!(76日間の日々よ、さようなら!)」

「8日になりました。いま、武漢は新たに呼吸を始めました」

 街中に喜びが広がる一方、武漢には無症状感染者が多数いると指摘されている。香港メディアは専門家の話として、その数を「2万人」と見積もっている。封鎖が解除された後、ウイルスが再び広がる可能性があり、居住区での出入りは依然として厳しく管理される。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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