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違法改築、ずさんな届け出、便乗値上げ……暴かれた中国“崩壊コロナ隔離ホテル”の実像

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
欣佳ホテルの崩壊現場で行方不明者の捜索作業が進められる(中国新聞網より)

 新型コロナウイルス感染防止のための隔離施設だった中国福建省泉州市鯉城区の「欣佳ホテル」が3月上旬に倒壊し、29人が死亡するという痛ましい出来事があった。欣佳ホテルは違法な改築を繰り返し、行政処分も短期間に3度も受けていた「問題施設」だったのに、当局は大勢の市民を収容する場所に指定していた。ホテル側は隔離スタッフに通常の倍近い宿泊費を要求していたという。事故を契機に不正行為が次々とあぶり出された形だ。

◇ビル1階に過剰な重量

 欣佳ホテルは3月7日午後7時すぎに崩壊し、71人が閉じ込められた。9人が自力で脱出したものの、救助が及ばず29人が死亡した。最後の犠牲者が現場で発見されたのは12日午前11時すぎだった。

 当局によると、ホテルの入ったビルは2013年に建てられた鉄骨構造で、高さ22メートルで7階建て。その後改装され、2018年6月、66の客室を有する「欣佳ホテル」として開業した。

 事故後、中国国務院(政府)が専門調査チームを結成し、原因を調査したところ、ホテル側の違法性が次々に判明した。

 ホテルの建物はもともと4階建てだったが、ある時期に経営者が7階建てに改修した。かつて各階はホールのような状態だったが、客室に仕立てるため細かく間仕切りし、その結果、コンクリートなどが大量に使われたため、1階部分に過剰な負荷がかかっていた。事故前にはその1階で改装作業が進められ、支柱が変形した数分後にビルが崩落した。

◇「問題のホテル」

 泉州は人口約860万人と福建省最大で、同省の経済の中心地とされる。かつて海上の交易の中心地として栄え、アラビア半島につながる「海のシルクロード」の出発地だったことでも有名だ。マルコ・ポーロの「東方見聞録」でも触れられている。

 中国メディアによると、泉州のホテルはおおむね評判は良いようだが、この欣佳ホテルは例外扱いされている。その理由が、ほんの1年余りの間に、宿泊の登録システムに不備があったり、規定の報告書を提出しなかったりして、3度も行政処分を受けているからだ。

 行政処分を発出した段階で、当局は欣佳ホテルを問題視していた。そのうえ、ホテルは行政処分のあとも違法改築を重ね、ホテル崩壊の兆候さえあったという。地元では、監督部門の不行き届きを問う声が上がっている。

 ホテル開業の際の手続きにも、多くの疑問がある。

 中国のニュースサイト「財新ネット」によると、地元当局への届け出では、ホテルの入ったビルの使用面積は3363・3平方メートルなのに、土地の面積はその10倍もある。専門家は、当局に提出した書類の偽造か、あるいは当局者と共謀して虚偽内容の書類を作成した可能性があると指摘している。

 また、ホテルの土地は地元集落の農地だったが、法手続きのないまま国有地に転換されている。さらに、ホテルは火災安全検査に合格していない段階で営業許可を受けていた――なども財新ネットの取材で判明している。

 欣佳ホテルもビルも所有者は楊金鏘氏。楊氏はかつて、地元の土地解体をめぐる汚職事件に関与していたともいわれる。今回の事故で楊金鏘氏は身柄を拘束されている。

◇便乗値上げ

 欣佳ホテルは新型コロナウイルス感染が深刻な地域から来た経過観察対象者の隔離施設として利用されていた。ウイルス感染防止への対応のなか、各地のホテルが次々と閉鎖されたのに、なぜ欣佳ホテルが隔離施設として運営を続けることができているのか、追及を求める声が上がっている。

 加えて、欣佳ホテルの“便乗値上げ”への批判もある。通常、宿泊代は1泊平均100元(1510円相当)程度なのに、隔離スタッフには188元を要求していたという。ネット上には「安いからこそ、隔離場所に指定された」「事故がなかったら、欣佳ホテルは大儲けしていただろう」「国の困難に乗じて自分だけが利益を得ている」との指摘があった。

 国営中央テレビによると、泉州市は事故後、違法建築の摘発のローラー作戦を展開し、3月25日までに家屋15万5000棟を調査した。4075棟の家屋を処罰の対象とし、うち426棟を解体したという。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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