米国ならではの気になる統計 1、トランプの反移民キャンペーンで早産が増えた

(写真:ロイター/アフロ)

先月、米国ならではと思われる統計について報告した論文を3編も目にしたので、紹介することにした。1日目は、2016年大統領選挙のトランプによる反移民キャンペーンの影響を医学的に調べた論文を紹介する。

さて一昨日、中距離核弾頭全廃条約が失効した。トランプが大統領になってからまだ2年半しか経っていないのに、世界を見渡すとトランプ旋風が吹き荒れ、これまでの世界秩序がもろくも崩壊していくのを感じる。これが新しい秩序につながるのか、さらなる混乱につながるのか予想がつかない。しかし特定の層を名指して攻撃していく彼の戦略と、そのプロパガンダのレトリックは、政治家にとどまらず、一般の人にも強いストレスになっていると想像できる。

私でもそう感じるのだから、名指しされた人たちは計り知れないプレッシャーを感じているはずだ。そんなストレスを医学的に評価しようと試みた論文がニューヨーク、Stony Broock大学を中心とした共同グループからJAMA Network Openに発表されたので紹介する(Gemmill et al, Association of Preterm Births Among US Latina Women With the 2016 Presidential Election (米国でのラテン系女性の早産は2016年大統領選挙と相関している), JAMA Network Open, 2019, e197084)

社会学的調査で差別の実態を調べることはわが国でもよく行われているが、トランプの政策のプレッシャーに関しては、直接様々な身体へのストレスを引き起こしている可能性を医学的に調べた論文が報告されてきた様だ(他の大統領の時代にどうだったかは知らない)。

特にメキシコ国境の壁建設や、不法移民の強制送還などの政策が、ラテン系住民の健康に及ぼす可能性が調べられ、血圧上昇や、精神疾患の増加、あるいは低体重児の増加などと相関する可能性が報告されてきた。しかし、これまでの研究は統計学的に完全ではなく、トランプに「just an opinion」と片付けらる可能性が高い。

この反省に立って、こんどは3000万人に及ぶ国の出生統計をもとに、ラテン系住民(合法、非合法の滞在者を問わない)早産率とトランプが選ばれた2016年の選挙との相関を徹底的に調べたのがこの研究だ。

基本的には大統領選挙に入る前と、選挙後のラテン系住民の早産率を月ごとに比べたもので、統計的正確さを確保するために、様々な補正を行なったモデルを組み立て、予断が入らないよう様々な統計処理を用いて結論を確かめているが、詳細は全て省く。

結果は、選挙中に妊娠していたラテン系住民が早産する率が、それ以前と比べ0.6%近く増加しているというものだ。もちろん大きな差ではないが、選挙前から長期にわたって月ごとに早産率を見てみると、選挙とともにはっきりした上昇が見られる。特に、選挙後の2017年2月と7月にはさらに高いピークを示し、トランプが選ばれるというストレスに高い感受性を示す時期があるようだ。以上の事実から、著者らは大統領選挙のストレスにより早産率が上がったことは間違いないと結論している。

結果はこれだけだが、具体的な政策が行われる前の選挙中の発言の影響を見ていると考えると、一人の政治家の発言が多くの人の健康に影響がある可能性を示す一つの例にはなるだろう。ただ、同じ様な状況で同じことが起こるかさらに確かめることは重要だ。幸いと言っていいのか悪いのか、今や世界にはそんな調査に値するストレスが満ち溢れている。ぜひ研究を拡大してほしい。

しかし、世の中のムードを身体的症状としてキャッチしようと努力している米国の医学の幅広さに感心する。