抗PD-1抗体治療の効果を高める 3、白血球のガン局所への侵入を防いですい臓ガンを治療する

(写真:ロイター/アフロ)

繰り返すが、本庶先生達の開発したがんのチェックポイント治療をさらに多くのがん患者さんに使えるようにするには、ガン局所での免疫反応をまず高める必要がある。これを実現すべくありとあらゆる可能性が試されているのが現在で、毎日新しい論文が発表されていると言っても過言ではない。その中から、1回目はガン局所にとどまりやすくした免疫活性分子を用いる治療法2回目はガンを食べやすく調理するラマの抗体を詰めた細菌爆弾の論文を紹介した。

3回目の今日は、ガンの中でも最も厄介で、チェックポイント治療の対象として一般的にはなっていないすい臓ガンの抗PD-1抗体治療効果を高める、全く新しい発想の新薬開発についての論文で、米国ワシントン大学から発表された(Agonism of CD11b reprograms innate immunity to sensitize pancreatic cancer to immunotherapies (CD11b分子を活性化する作動薬は自然免疫システムをプログラムし直し、膵臓ガンの免疫治療感受性を高める)Science Translational Medicine 11 eaau9240, 2019)。

他のガンと比べた時すい臓ガンの特徴は、ガン細胞の周りの間質に強い繊維化と白血球の浸潤が見られる点で、これが抗ガン剤やキラーT細胞の浸潤を妨げて、ガン治療を難しくしていると考えられ、すい臓ガンの間質は重要な治療標的として研究されている。この研究では、ガン組織への白血球の浸潤を抑えることで、すい臓ガンの治療が容易になる可能性を追求している。

著者らはすい臓ガン間質に浸潤する白血球がCD11bインテグリン分子を発現していることに注目し、この分子を活性化して血管への接着を促進する経口摂取可能な低分子化合物ADH-503を開発した。もしこの分子を活性化できれば、白血球がすい臓に浸潤する前に血管にベタベタくっついて、結果として浸潤が抑えられるというアイデアだ。

予備実験として、ADH-503を投与すると、マウスの膵臓ガン間質への白血球浸潤が抑えられ、その結果間質でのコラーゲン産生が低下し、さらに自然免疫系が免疫誘導型へとプログラムし直され、結果としてガンに対するキラーT細胞が誘導されることを確認している。すなわち、白血球がガン局所に存在することで、免疫の成立を邪魔していることが明らかになった。

あとはADH503と様々なすい臓ガン治療を組み合わせ、効果を確かめている。結果を箇条書きにすると以下のようにまとめられる。

  1. ADH-503単独ではガン自体への作用はないが、間質の変化を通してガンの増殖を抑制することができる。
  2. すい臓ガンに最もよく用いられる化学療法、ジェムシタビンとパクリタクセルの組み合わせにADH-503を併用すると、完治はしないが生存期間を2倍に伸ばすことができる。
  3. 放射線照射と組み合わせても、強い腫瘍抑制が可能になる。
  4. しかし何と言っても驚くのは、抗PD-1抗体と組み合わせると、ガンを完全に消滅できている点だ。
  5. チェックポイントを抑制してブレーキを外す治療だけでなく、抗41BB抗体を用いてT細胞活性化のアクセルをふかす免疫療法でも、腫瘍を完治させられる。

以上、白血球のすい臓ガン組織への浸潤を抑制するという非特異的方法でも、すい臓ガンの場合強い免疫反応を強く誘導することが可能になり、チェックポイント治療やT細胞刺激治療と組み合わせると、ほぼ完璧な腫瘍抑制が可能になるという結論だ。

ただ、この薬剤の場合マウスに使われている量が60mg/kgと大量で、おそらく薬剤としてはまだまだ改良の余地があると思うが、インテグリンを活性化するという逆転の発想で予想以上の効果が見られることは、今後期待の治療へと化ける可能性はある。期待したい。