抗PD-1抗体治療の効果を高める 2、大腸菌にラマの抗体をつめた細菌爆弾でガンを食べやすくする。

(写真:アフロ)

前回は、ガン組織に免疫活性化サイトカインを注射し、ガン免疫に関わるT細胞を活性化して、抗PD-1抗体の作用を高める方法を紹介した。方法自体は、ガン特異的免疫活性化ではないが、ガン局所にはより多くのガン特異的T細胞が存在すると期待できるので、チェックポイント治療の特異性も高めることができるというわけだ。

これに対して今日紹介するコロンビア大学のグループは、ガン細胞をマクロファージや樹状細胞に食べやすく調理して、ガン特異的免疫反応を高めるという異色の方法を発表した(Chowdhury et al, Programmable bacteria induce durable tumor regression and systemic antitumor immunity(プログラム出来るバクテリアは持続的ガンの退縮と全身性のガン免疫を誘導できる)Nature Genetics in press: https://doi.org/10.1038/s41591-019-0498-z )。

このユニークな戦略を理解してもらうには少し説明がいる。

ガン細胞はCD47と呼ばれる分子を細胞表面に発現して、マクロファージや樹状細胞に食べられないよう自己防御している。その結果ガンが死にかけていても、マクロファージはがん細胞をアタックして食べることができない。そこで、抗CD47に対する抗体を使って、ガンが持つこの防御バリアーを破ってやると、ガン細胞は食べやすくなる。その結果、ガン細胞内の様々な分子が処理されて、免疫系にガン抗原として提示することができる。

問題は、CD47に対する抗体を全身投与すると、正常な細胞も食べられてしまって、貧血や血小板減少症がおこる。そこで、前回のサイトカインと同じように、ガン局所に高い濃度で抗体が存在し、全身には影響がないという状況を作る必要がある。おそらく、サイトカインと同じように、このような抗体をガン局所に持続できるようする方法の開発も行われていると思う。

一方この研究では、ラマを免疫して作らせた抗CD47抗体遺伝子を導入した大腸菌をガン局所に投与する、まさに意表を突く方法で、この課題を克服している。

と聞いても、何のことだかわからないと思うので、もうすこし説明を続けよう。

もし大腸菌が抗体を作れて、ガン局所で増殖してくれたら、この大腸菌爆弾を使ってガン組織だけでCD47抗体の濃度を高めることができる。しかし私たちの抗体は2本のポリペプチド(H鎖、L鎖)が折りたたまれて初めて活性を持つ。この複雑な反応は、残念ながら大腸菌の中では難しい。そこで、ラマの抗体が登場する。ラクダやラマは、他の哺乳動物と異なり、一本のポリペプチド(H鎖)だけで機能できる。このおかげで、大腸菌にラマ抗体をコードする一本の遺伝子を導入するだけで、機能的な抗体を大腸菌に作らせることができる。

この研究ではすでに開発されていたラマの抗CD47抗体遺伝子を大腸菌に導入し、バクテリアが局所増殖して一定の数に達したとき人為的に崩壊させられるように設計している。これにより、十分ラマ抗体をため込んだ大腸菌を局所で破裂させて、抗体を吐き出させるという戦略が可能になる。

あとは、この大腸菌爆弾の局所注射がガン抑制効果を示すか調べるだけだ。驚くことにこの大腸菌爆弾単独で、強いガン免疫が誘導され、多くのガンの増殖を抑制することができる。また2カ所でガンが増殖している場合でも、1カ所でこの大腸菌を注射して破裂させると、もう片方のガンが消失している。

著者らはよほど自信があるのか、この論文では抗PD-1抗体などのチェックポイント治療との併用は調べていない。しかし、ガンによっては完全に抑えられていないケースも見られることから、おそらく抗PD-1抗体との相性はいいのではと思う。

最後に個人的印象だが、遺伝子導入した大腸菌自体が利用できるようになると、治療にかかるコストはかなり低く抑えられるはずだ。また、大腸菌を破裂させることで、バクテリアから吐き出される様々な分子によって局所の自然免疫も高めることができ、抗CD47抗体だけを使うよりはるかに強い免疫を誘導できる可能性も高い。ただラマの抗体を使っている以上、どうしても抗体に対する抗体ができてしまって、何回も使うことは難しいだろう。その意味でも、チェックポイント治療や、逆に免疫のアクセルを高める治療と併用することが標準になる気がする。。