私が酒好きだから色眼鏡で論文を読んでいると言われると面目無いが、酒と寿命の関係を調べた論文の多くは、少量なら酒を飲んだ方が長生きだと結論しているように思う。もちろんこの考えは全ての専門家に認められたわけではなく、議論は続いている。実際本当に最終決着が得られる調査が可能かどうかわからない。そんなわけで、決着がつかないことを決め込んで、今夜もまた一杯となる。

などと思っていたら、この問題に決着をつけようと大胆にも挑戦していた研究がコロンビア大学を中心に行われていた。Health and Retirement Study(健康と引退の研究)と名付けられ、調査開始時の年齢が50歳以上(平均61歳)のおもに退職者とその配偶者を1998年から2年ごとに酒の飲み方についてインタビューを繰り返し、2014年まで追跡した研究で、アルコール症に関する専門誌に発表された(Keyes et al, Alcohol Consumption in Later Life and Mortality in the United States: Results from 9 Waves of the Health and Retirement Study(米国での後半生のアルコール消費と死亡率:「健康と退職」研究で行われた9回の調査結果), Alcoholism: Clinical and Experimental Research, in press, 2019:DOI: 10.1111/acer.14125 )。

対象者は1931-1941年生まれの7904人で、1992年から1996年に、それまで全く酒を飲んでいない「生涯禁酒」と、それ以外にまず分類している。今回の調査は1998年に開始されるが、この時新たに酒を飲まないと答えた人達は「現在禁酒」に分類される。残りの人達は調査前3ヶ月のアルコールの飲み方を申告してもらい、ほぼ毎日一回3杯以上飲む人を「大酒飲み」、週に何回か1-2杯飲む人を「中程度飲み」、そして「たまに飲む人」に分けている。

実際には男女で基準の量を変えているし、他にも色々基準を設けて分類しているが、詳細はいいだろう。結論は驚くべきものだ。

16年間2年に一回調査を繰り返し生存曲線を描くと、一番長生きしているのが男女共「中程度飲み」の人達なのだ。次に来るのが、「たまに飲む人」で、例えば16年目の生存率で見ると、全く飲んだことがない人よりそれぞれ、15%、10%長生きしている。

一方、深酒はやはり早死につながるようで、男性では全く飲まない人より早死傾向にある。しかし、16年目で見るとほとんど差はない。すなわち、深酒の場合死ぬ人は早めに死ぬことになる。

そして最も驚くのが、男性では酒を飲んでいたが途中でやめたという「現在禁酒」の人が16年目では最も生存率が低いことだ。一方女性では「大酒飲み」は数が少なく正確な統計が出ないが、「生涯禁酒」と「現在禁酒」群ではあまり差はなく、両方とも「中程度のみ」「たまに飲む人」より12%ほど生存率が低い。

当然途中で禁酒した人は、何か体の不都合があったから禁酒した可能性が考えられるので、インタビューで得た情報から様々な要因を差し引いて比べることも行なっているが、「中程度飲み」が一番リスクが低く、「現在禁酒」群がリスクが高い傾向は変わらない。

60歳を越した退職者にとって、ある程度酒を嗜む方が長生きでるという結果で、酒が飲めなくなったら少し心配したほうがいいという結論だ。

私も酒好きだが、だからと言って「では皆さんもっとお酒を飲みましょう」と手放しで喜ぶまではいかない、複雑な気持ちだ。

紹介しておいて無責任だが、この論文を信じるかどうかは自分で判断してほしい。