現役時代、あるカンファレンスで我が国のアトピー患者数と、石鹸の消費量が正比例しているという話を聞いたことがある。ゴシゴシ石鹸で洗うことで、皮膚のバリアーが壊れ、そこから抗原が入ってアレルギーになるという話だ。

これは統計的相関に過ぎないが、実際に赤ちゃんの皮膚のバリアを守るとアレルギーの発症が大幅に減ることが明らかになり、新生児に予防措置が取られる様になっている。重要な進歩だ。

この皮膚のバリアを守ることに加えて、アレルギー予防の鍵と考えられているのが、腸の環境をアレルギー予防型に維持する可能性だ。例えば、農家で育つとアレルギーになりにくいという調査結果を私のブログで紹介したことがある(http://aasj.jp/news/watch/5850)。おそらく、環境に応じて形成される腸内細菌叢を介して、この差が出ていると考えられるが、この環境の要素を抽出することはむずかしい。

このためには、農家の環境といった抽象的な区分ではなく、アレルギー発症と相関する「農家度」を定義する必要がある。最近この「農家度」を家庭内の細菌の構成から定義し、この指標が都会の子供のアレルギー発症予測にも使えることを示す論文がフィンランド公衆衛生研究所から発表されたので紹介する(Kirjavainen et al, Farm-like indoor microbiota in non-farm homes protects children from asthma development (都会でも室内の細菌叢が農家型の家庭の子供は喘息から守られている)Nature Medicine in press, 2019:https://doi.org/10.1038/s41591-019-0469-4 )。

この研究はフィンランドで行われている、農家で生まれた子供が半分を占める集団の追跡研究(コホート研究)と、ほぼ全員が都会で生活している子供のコホート研究を利用して行われた調査だ。

まず2ヶ月時に子供たちの家庭内のダストを真空掃除機で収集し、その中に含まれる細菌叢を調査し、農家と都会の家庭の細菌叢の差を調べる。予想通り差ははっきりとしている。簡単に言ってしまうと、細菌叢に含まれる細菌種類が農家では豊富で、また家畜についている細菌が家庭内に多く持ち込まれている一方、もともと人間に特異的な細菌は都会の家庭環境に多い。

こうして定義される細菌構成の差の中から喘息の発生率と相関する要因を抽出して、喘息の発症率と相関する差を探すと、バクテリアと古細菌の存在比率をモデル化した指標が喘息発症予防に関わる農家度指標として使えることがわかった。この指標を著者らはFaRMIと名付けているが、この指標にはバクテリアの細胞壁成分のムラミン酸が強く寄与していることもわかった。今後喘息予防とどう関わるのか、研究が待たれる。

FaRMI指標は農家だけでなく、都会の家庭環境でも測定でき、高いと喘息の発症率は低下している。面白いことに、都会の家庭でFaRMIが高くなる要因を調べると、家の中でも靴を脱がない、兄弟が多い、室内の湿度が高い、家が古いなどが関係している。要するに、あまり清潔でない家庭がFaRMIが高い。

最後に、同じ手法でドイツのコホート調査からFaRMIを算出し、喘息の発症と相関するか調べている。ドイツの家庭をフィンランドのFaRMIで調べても、フィンランドの家庭をドイツのFaRMIで調べても、農家の環境に近いほど喘息が低下している。この環境による影響を血液検査指標で検出できるかも調べているが、一言で言うとある程度可能だが、まだまだ研究は必要だ。

結果は以上で、要するに都会でも外の土が入ってくるような自然により開かれた環境が作れれば喘息はある程度予防できるという話だ。

さてこの結果を我が国に移して考えてみよう。靴のまま家に上がるのはわが国では難しいため、なかなかFaRMIが高い条件を都会に実現するのは難しそうだ。しかし、自宅の環境は外部と遮断し清潔であることが重要だという考えはそろそろ見直してみてもいいかもしれない。家庭内を外から遮断するためのスプレーまで売れている様だが、清潔によって失うものがないか、科学的に調べる時期が来たと思う。