所詮サルに音楽はわからない。

(写真:つのだよしお/アフロ)

図は、ソニーのウォークマンで、我が国家電メーカーが世界の文化をリードしていた時代を象徴する製品だ。私も留学前に購入して、実験しながらよく音楽を聴いた。その時「これほどの音質の音楽が、身につけて楽しめるのか!!」と感動したことは今も覚えている。さて、このウォークマンの宣伝の中でも一斉を風靡したのが、猿がウォークマンから音楽を聴いて悦に入っているビデオで、ぜひYoutubeで見ていただきたい

もちろんこの映像はサルも音楽がわかるという私たちの思い込みを前提として作られている。実際、行動だけで見ると犬は音楽を選んで反応するし、サルを用いた行動学的研究では、サルも人間と同じ様にハーモニーやリズムがあると、音程の変化をよりよく認識することがわかっている。

しかしこの結果は、音楽と音楽以外(人間の決めた)を区別できているのかを示すものではない。このためには、脳自体の反応を調べる必要がある。そして先週、この課題に取り組んでいたコロンビア大学のZuckerman研究所のグループが、MRIを用いた脳機能解析により、サルにはハーモニーを持つ音階の認識ができないことを明らかにしたので紹介する(Norman-Haignere et al, Divergence in the functional organization of human and macaque auditory cortex revealed by fMRI responses to harmonic tones(人間とサルの聴覚皮質の機能的構成の違いがハーモニーを持つ音に対する機能的MRIの反応からわかる)Nature Neuroscience, in press, 2019: https://doi.org/10.1038/s41593-019-0410-7)。

この研究ではヒトとアカゲザルに、様々な音程の、ハーモニーを持った音、および持たない音を聞かせ、それぞれに対する脳の聴覚野の反応を機能的MRIで記録して、音楽のニュアンスを理解しているかの指標として調べている。

アカゲザルもヒトも、ハーモニーをもった音程の異なる音を区別するが、高い音程や低い音程に対しては、アカゲザルの方が多くの場所で反応している。

次にハーモニーを持った音と、音程は同じだがハーモニーのないノイズを聞かせ、ハーモニーとノイズを区別する能力を調べると、サルでは音程の違いは認識できても、ハーモニーのある音も、ノイズもあまり区別できていない。この傾向は個々の脳の反応領域に絞って調べてみても同じで、ヒトではハーモニーを持つ音に強く反応するのに、サルはノイズとハーモニーの区別ができておらず、逆に場所によってはノイズの方により強く反応する場所も見られる。

これらの実験では全てシンセサイザーによる合成音を用いているので、合成音に慣れていないサルはノイズとハーモニーの区別ができていない可能性がある。そこで、様々な音程の音をサルの27種類の鳴き声から合成し、異なる音程のサルの鳴き声と、ノイズとの区別ができているか調べている。

面白いことに人間もしっかりサルの声を、ハーモニーとして認識してノイズと区別している。しかしサルでは、サルの鳴き声に反応する領域でみても、声とノイズに対する反応との差が大きくない。

以上の結果から、人間もサルも、音を聞いたとき脳は音程の差を認識しているが、ハーモニーや声のような音の複雑なニュアンスを認識できないと結論している。すなわち音楽はわからないと結論している。

この様に、21世紀に入って、音楽の背景にある脳活動について研究が急速に進んでいる。だからといって、ウォークマンを聴いて悦に入っているサルのコマーシャルの価値は全く損なわれることはない。今度は、このコマーシャルに人間とサルがどう反応するのか調べてみたいものだ。