基礎知識

1型糖尿病

糖尿病と聞いてみなさんが一般的に思い浮かべるのは、2型糖尿病だが、これとは全く異なるタイプの1型糖尿病が存在する。1型糖尿病(type1 diabetes:T1D)は、インシュリンを分泌する膵臓のβ細胞が、自分の免疫システムにより攻撃され殺される結果、インシュリンが分泌されなくなり糖尿病になる。β細胞が完全に失われると、細胞移植しか治療法はないが、自己免疫病なので組織が完全に破壊されるまでには時間がかかる。そのため、1型糖尿病治療のもう一つの柱は、早期に診断して、β細胞に対する免疫反応を抑えることだ。このためには、β細胞のどの分子が自己抗原として働き、どのように免疫システムを活性化しているのかを明らかにすることが重要になる。

T細胞とB細胞

免疫システムには様々な細胞が関わっているが、その中心は特異的抗原と反応するリンパ球だ。リンパ球は大きくT細胞とB細胞に分かれ、抗原と反応する分子は図に示すように、構造でも機能でも大きく異なっている。それぞれの抗原と反応する受容体は便宜的に、T細胞ではTcR(T cell receptor)、B細胞ではBcR(B cell receoptor)と呼んでいる。重要なことは、リンパ球と言ってもT、B各細胞は独自に分化し、TcRとBcRが同じ細胞に発現するということは全くないとされてきた。

TcRとBcRを同時に発現するリンパ球が1 型糖尿病患者さんで見つかった

今日紹介するジョンズ・ホプキンス大学からの論文は、通常ありえないと考えられてきたTcRとBcRを同時に発現したリンパ球が、なんとT1D患者さんの末梢血には存在し、T1Dを誘導する自己抗原の供給基地として働いてしまうという、これまでの常識を覆す研究で、5月30日発行のCellに掲載された(Ahmed et al, A Public BCR Present in a Unique Dual-Receptor-Expressing Lymphocyte from Type 1 Diabetes Patients Encodes a Potent T Cell Autoantigen, Cell 177:1583, 2019)。

この論文の詳細を完全に理解するためには、かなり専門的な知識がいるので、詳細はすっ飛ばして論文を紹介する(もし詳しく知りたい場合は6月21日19時よりYoutubeで解説する予定なのでそれを見てください)。

まず発端は、T1D患者さんの末梢血中に、普通は見つかることのないTcRとBcRの両方を発現したリンパ球が見つかったことだ。しかも両方の受容体はただ発現しているだけではなく、細胞を刺激する入り口としてしっかり機能している。正常の人でもよく探せば見つけることはできるが、間違いなくT1Dでは数が増えている。

そこで、この新種の細胞がT1Dの原因になっているのではと着想し、以下のことを明らかにしている。

  • 1)患者さんを問わずT1Dで増殖している新種細胞の多くが1種類のBcRを発現している。
  • 2)このBcR分子の一部が切り出されたペプチドが自己抗原としてT細胞を刺激する。
  • 3)BcR由来の自己ペプチドにより誘導されるT細胞はインシュリン由来ペプチドにも反応する。
  • 4)結果、BcR由来のペプチドで活性化されたT細胞がβ細胞を攻撃して殺し、糖尿病を引き起こす。

これまでT1Dの抗原は、膵臓のβ細胞自身から供給されているか、あるいはウイルスなど外来抗原が自己抗原にも反応するためではないかと考えられてきたが、はっきりと特定できた抗原はなかった。この研究が画期的なのは、免疫システム内に存在する不思議なリンパ球が、これまで探していた自己抗原の供給基地として働いていという、思いもかけなかった可能性を示している点だ。

もちろんにわかには信じがたいが、すべて人間で行われた研究で、しかも十分専門家を納得させる合理的な証拠が提出されている。もちろんこれほどの話だ、多くの研究室で確認される必要がある。そして、多くのT1Dでこの可能性が確認できたら、これまでより多くの治療可能性が生まれると思う。我が国でも、多くのT1Dの患者さんがおられ、根治を目指して活動しておられる。是非このまま研究が発展することを期待する。