息子に対する過保護のススメ:ボノボの話。

(写真:ロイター/アフロ)

ボノボとチンパンジーは約200万年前(人類で言えば直立原人が生まれたころ)に分離した大変近縁の種で、ともに中央アフリカに生息している。外見もよくにており、ボノボはピグミーチンパンジーと呼ばれるぐらいだ。

ところが、その生活スタイルとなると、なぜここまでと思うほど違っており、ボノボとチンパンジーの行動の差の起源を探る比較研究は、サル学のみならず、人間特有の能力や行動の起源を探るためにも重要な分野になっている。

特に違いが大きいのは性行動で、チンパンジーの交尾はオス優位で、発情しているメスが順位の高いオスのアプローチを拒否することはない。一方、ボノボの場合、どのオスと交尾するかはメスが決める。すなわち、どんなに順位の高いオスがアプローチしても、メスはつれなく断ることができる。その結果、オスに序列は存在していても、多くのオスに交尾のチャンスがあり、社会としては独特のメス中心社会が形成されている。

専門家でない無責任さで大胆にこの差を表現するなら、「チンパンジーは奪い、ボノボは与える」と言えると思っている。

このような社会システムの違いを、若いオスの観点から考えてみると面白い。チンパンジーの社会では、順位の低い若いオスに交尾のチャンス(=奪うチャンス)はまず巡ってこない。殺されないよう用心して、隙を窺うしかない。一方、ボノボの社会では、うまくメスに好かれれば(=与えられるチャンス)交尾の可能性はある。とはいえ、序列の低い若いオスには簡単な話ではない。

驚くことに、この若いオスの問題の解決を母親が助けてくれている可能性を示唆する観察結果がこれまで報告されているようだ。例を挙げると、

1)我が子を発情しているメスのところに連れて行って、見合いさせる。

2)我が子が交尾中に他のオスが邪魔をするのを追い払う。

3)他のオスの交尾を邪魔して子供の交尾チャンスを増やす。

4)子供の群れの中の順位を上げるために努力する。

要するに成熟しても親離れせず、親は過保護というわけだ。

とはいえこれらの観察結果が、本当に我が子の交尾チャンスを高め、血の繋がった子孫を増やす効果があるかどうかははっきりしなかった。この証明にチャレンジしたのが、今日紹介するドイツマックスプランク研究所を中心とする国際グループからの論文で、母親がいるオスが、いないオスより多くの子孫を本当に残しているのかを確かめている。(Surbeck et al, Males with a mother living in their group have higher paternity success in bonobos but not chimpanzees(母親が同じグループで生活していると父親として成功する確率が上がる)Current Biology 29, R342, 2019)。

この国際グループには世界中からボノボやチンパンジーの研究者が参加しており、当然サル学の盛んな我が国からも京大の霊長類研究所からボノボ研究者が参加している。研究ではそれぞれの研究グループが追跡しているボノボやチンパンジーの群れでの親子関係を特定し、オスの子供が成熟後も母親と同じ群れで生活している場合と、そうでない場合で、オスが他のメスと交尾して子供ができる確率を調べている。

群れによって大きなばらつきはあるが、ボノボでは母親と暮らしている方が明らかにメスと交尾に成功し子供ができる確率が高い。一方、チンパンジーの場合母親がいてもいなくても、オスが子供をもうける確率は変わらないことが分かった。結果はこれだけだが、これまでの行動観察結果が、たしかに母親から見れば孫の子供の数の上昇につながっていることが確認されたことになる。

面白いのは、母親から見た時、自分の血を引く孫が増えることになり、ボノボの世界ではたとえ生殖年齢を過ぎても、我が子への過保護を続けることで、自分の血筋を増やすことが可能になっている。

チンパンジーと比べてボノボは行動的によりヒトに近いと考えられているが、性行動に関して言えばホモエレクトスではすでに一夫一婦ではないかと考えられており、同じことが当てはまるかどうかはわからない。ただ、今も親の過保護、親離れの遅れなどは普通に見られる。人間の場合、親の過保護というと悪いイメージがあるが、実際にはこの本能なしに人間は絶滅していたかもしれない。