CAR-Tによるガン治療

ついにわが国でも、B細胞性白血病に発現しているCD19を標的にして、白血病を殺して除去するCAR-T治療が認可された。日本経済新聞の報道では、ノバルティスはCAR-Tを川真田さんがセンター長をしている神戸市先端医療推進機構で細胞準備を委託するらしいが、現役時代この施設の設立に努力した身としては、川真田さん達がよくここまで仕上げてきたと感慨も深い。

この治療の概要については昨年6月に詳しく紹介しているのでそれを参考にしてほしいが、CAR-Tそのものについての説明が足りていなかったので、冒頭の自作の図を使ってもう少し説明しておこう。

CAR-TとはC(キメラ)A(抗原)R(受容体)を略したもので、白血病の細胞表面に発現しているCD19(茶色)に対する抗体の抗原結合部位と、赤で示したT細胞を活性化する刺激を伝えるT細胞受容体部位が一つになった分子をコードする遺伝子を導入した自分のT細胞のことを意味する。これを導入されたT細胞は図に示すように、CD19抗原を持っている細胞なら全て殺すことができる。白血病に限らず、B細胞はすべてこの抗原を発現していることから、一度CAR-Tを注射すると、あとは白血病が新たに増えても次々と殺してくれることが期待できる。このように、CAR-Tの魅力は、ガンに発現する抗原から、ガン細胞を殺すところまで、全てが治療する側の手の内にある点だ。

CAR-Tで避けることができない副作用

前に紹介したように、これまでの報告を総合すると、様々な治療に反応しなくなった末期の白血病でも、CAR-Tは5割以上の白血病の増殖を抑えることができる。この実力が、世界のベンチャー企業の目をこの治療に向けさせる原動力となっている。

しかし、既に述べたようにCD19抗原は正常B細胞にも発現している。このため、同じCAR-Tがガンだけでなく、正常のB細胞を殺すことは十分予想できる。事実、CAR-Tを移植された患者さんでは、予想通りほぼ完全に正常B細胞が消失する。

事実私自身、CAR-Tの論文を初めて読んだ時、正常B細胞も消失することを知って、この治療の効果を確信した。このように、CAR-Tは猛烈な力を持っている。

正常B細胞が消えるなら、自己免疫病も治療できる

ガン治療から考えると正常B細胞が消えてしまうことは副作用になる。この副作用を逆転させて、作用にできないかを考えたのが、今日紹介するテネシー大学微生物教室からの論文だ(Kansal et al, Sustained B cell depletion by CD19-targeted CAR T cells is a highly effective treatment for murine lupus(CD19を標的とするCAR-T細胞による持続的B細胞除去はマウスSLEモデルの治療に極めて有効)Science Translational Medicine 11:eaav1648 , 2019)。

免疫システムが自己の成分に対して反応して炎症を起こすことで起こるなら、免疫システムの重要な一員であるB細胞を除いてしまえば、病気を抑えることができるという発想だ。

SLEモデルマウスのCAR-Tによる治療

SLEは全身性の自己免疫病で、その発病に様々な自己抗原に対する抗体が作られることが関わっていると考えられている。このため、以前からB細胞を除去することで、治療の難しいSLEを治療できるのではと考えられてきた。

これまでもB細胞の腫瘍をはじめ、B細胞の機能を抑える方法としてCD20と呼ばれる抗原に対する抗体が治療に用いられ、腫瘍だけでなく自己免疫病にも効果があることが示されていたが、なぜかSLEには効かないことが多かった。

そこで著者らは、CD20に対する抗体が効かなくなった白血病にCAR-Tが効果があるなら、同じことがSLEでも起こるのではとかと考えた。

そして、SLEのモデル動物としてNZWマウス、およびMRLマウスを用い、同じ系統のマウスからCD19を標的とするCAR-Tを準備し、これを自己免疫病が発症したマウスに注射した。すると期待通り、NZBマウスでも、MRLマウスでも、CAR-T注入で見事にB細胞は完全に消失し、これに合わせて、SLEの指標である抗DNA抗体は11週からほぼ完璧に抑えることができる。ただ、面白いのは血清中の免疫グロブリン濃度は確かに低下しているが、それでもCAR-T治療18週目でも残存しているので、どこかにT細胞の攻撃を逃れたB細胞が抗体を作っていることになる。。

しかし残存抗体は自己免疫を起こすわけではなさそうで、マウスの生存曲線を見ると、どちらのモデルでも大体6-7割のマウスが長期生存している。また、症状の点でも尿にタンパク質は全く検出されなくなり、脾臓肥大が治り、腎臓や皮膚の病理像が大幅に改善する。

これらの結果は、自己免疫が起こっているマウスのT細胞もCAR-Tとして使うことができ、SLEの症状を長期間抑える治療法になり得ることが明らかになった。

この研究では、B 細胞を除去できたのになぜ免疫グロブリンが残存するのか調べる目的で、CAR-Tを注射後マウスを詳しく調べているが、ここでは割愛する。

話は以上で、自己免疫疾患なら、免疫系を潰せば病気は治せるという、極めて当たり前のことを粛々とやって見せた研究だと思う。このデータを見れば、おそらく人間でもすぐに治験に入れると思う。ただ、すべての自己免疫病がB細胞を潰せば治るというわけではない。また効果が見られた場合でも、B細胞は骨髄中で作り続けられ、そのB細胞をCAR-Tが殺し続けるというサイクルが体に組み込まれてもいいと踏ん切りをつけるのは簡単でない。ただこんな心配は、病気の苦しみがわかっていない人間のたわごとかもしれない。