チャンポンで飲むと二日酔いになりやすいというのは本当か?

(写真:アフロ)

テレビや新聞などのメディアに溢れるサプリメントや機能性食品の多くは、本当の意味で真面目な医学的検証が行われていないことが多い。これは認可の問題もあるが、要するに真面目に医学的検証を行うことが簡単でないからだ。企業が責任を持つサプリでもこの有様なので、一般に流布している健康に関する教訓などは、検証されているのかどうかもっとわかりにくい。しかし、人間の長年の経験と知恵の結晶と、大体は疑わずに信じている。

こんな教訓の中に、「さまざまな種類のお酒をチャンポンで飲むと二日酔いになりやすい」がある。アルコールに親しむようになってから、私もなんども耳にしてきた。また、ドイツに留学した時も、同じような「教え」を何度も聞いた。そして、この教訓が医学的に正しいかどうか問うことなく素直に信じてきた。その結果、私自身はほとんどワイン一途でアルコールを楽しんでいる。

しかしこの教訓を疑い、真面目に検証した論文が現われた。ドイツ ブッパータール大学小児科からの論文で2月8日号のAmerican Journal of Clinical Nutritionに掲載された(Koechling et al, Grape or grain but never the twain? A randomized controlled multiarm matched-triplet crossover trial of beer and wine (ブドウでも麦でもいいが、しかしチャンポンはだめ?ビールとワインの様々な組み合わせを試す無作為化試験) American Journal of Clinical Nutrition 109:345, 2019:オープンアクセス

この論文はヨーロッパの古い知恵として言い伝えられてきた「Grape or grain but never twain(ワインでもビールでもどちらでもいいが、チャンポンはダメ)」という言葉をそのままタイトルに使っている。そして、タイトル通りビールだけ、ワインだけ、ビールからワイン、ワインからビールという4種類の組み合わせでアルコールを十分酔うまで(呼気のアルコール濃度が0.11%)飲んで、次の日に8種類の症状(喉の渇き、倦怠感、頭いた、フラフラする、吐き気、胃痛、頻脈、食欲不振)について自己診断を行ってもらって、二日酔いになっているかどうかを調べた研究だ。

ともかく真面目に医学的検証を行っている。何と言っても、大学の倫理委員会の許可を得ている。そして272人のボランティアに、まず1週間アルコール断ちをしてもらい、アルコール処理酵素についても正常の人だけを揃えて実験をしている。もちろん基礎疾患がある人は全て対象から省く。

医療統計学的にも極めて真面目だ。まず被験者をどのグループに振り分けるかは、完全に無作為化している。とはいえ、自分が何を飲んでいるか当然わかるので、盲検ではない。代わりに、タイトルの「cross over」からわかるように、ワインからビールを試した人は、1週間後ビールからワインと逆の飲み方にスイッチして同じ実験を行ってもらい、好みによる精神的影響が排除できるよう計画している。同じように、ビールだけに振り分けられた人は、次の実験ではワインだけに変わる。幸いこの論文はフリーアクセスなので、グループ分けについては論文に掲載されている図をそのまま利用させてもらう。

画像

さて結論だが、単純明快だ。結局どのような条件で飲んだとしても、次の日の二日酔いの強さは同じだったという結果で、古くからある知恵を全く否定する結論になっている。私のような酒好きにとってのメッセージは、「飲む時には細々考えず、気分に合わせて酒を楽しめばいい」という結論になる。

もちろんいくつか問題もある。最終的に各グループの母数が28-31人になってしまっており、よほどの差がないと有意差が出にくくなっている。また、呼気のアルコール濃度を指標にしているが、実際には約5時間かけてビール1.4リットル、ワイン0.6リットルを飲んでおり、ヨーロッパ人で酒に強い人なら普通にこなしてしまう量だと思う。そのためか、各グループでのデータのばらつきが多い。したがって、もっと違った飲み方も同時に比べることをしないと、最終結論は出ないように思う。

とはいえ、著者には失礼だがなんとも馬鹿げた研究目的と、270人ものボランティアを募り、厳密な医療統計に基づく研究を行っている真面目さとのアンバランスがこの論文の最も面白い点だろう。イグ・ノーベル賞狙いではないかとすら勘ぐってしまう。論文の最後に通常書かれるAcknowledgementsを調べてみたが、さすがにこの研究に助成金は出ていないようだ。

最後に個人的なつぶやきを許してもらうと、論文の最後がCheers(乾杯)で締めくくっている論文は、これが最初で、おそらく最後の論文になるだろう。