日本の国際捕鯨委員会からの脱退を国際科学雑誌(Nature & Science)はどう見たのか?

(写真:Glenn Lockitch/Sea Shepherd Australia/ロイター/アフロ)

昨年暮れ我が国は国際捕鯨委員会(IWC)から脱退した。これに対して様々な意見が聞かれたが、ほとんどが政治、倫理、食文化、伝統などの観点からの意見で、クジラ保護という科学的視点からの意見はほとんど聞かれない。これに対し、2大国際科学雑誌ScienceとNatureが、先週号に科学の観点から意見を述べており、私も読んで完全に納得したので紹介することにした。

クジラ保護の問題を科学的観点に徹して評価する

IWCからの脱退でよく聞かれた意見は

もともとクジラの消費は先細りで、漁業として極めて小さな経済活動に過ぎず、将来後継者もままならない捕鯨と引き換えに、わが国が国際協調を破る国であるという汚名を着るのは、あまりにも損失が大きい。

と言った内容が多かったように思う。私はクジラ肉の給食が当たり前だった世代で、自分の経験を振り返ると、このような意見ももっともだと思ってしまう。しかし上に例示した意見にはクジラ保護という科学的視点は皆無だ。

クジラを殺す事に関する感情や倫理問題、クジラ消費の動向のような経済問題、食文化としてのクジラと言った文化問題、国際協調と言った政治問題、などなど、文化・経済・倫理・政治的観点からこの問題を議論しても、議論は平行線をたどりコンセンサスを得ることは難しい。最近のIWCでの議論がこのことを物語っている。

一方、クジラ保護という科学的観点から我が国のIWCからの脱退の効果を評価し、コンセンサスを得ることは十分可能で、まずこの点について我が国の脱退の効果を評価しようというのが、Nature, Scienceの意図だろう。

我が国の脱退はクジラ保護という観点から見ると望ましい?

Scienceの記事は、私も現役時代何度も話をする機会があったアジア地区コレスポンデンスの、Dennis Nomileさんが書いており、タイトルは「Japan’s exit from whaling group may benefit whales (日本の捕鯨グループからの脱退はクジラにとっては良いことだ)」(Science 363:110, 2019)と刺激的だ。一方Natureは編集室からのコメンタリーとして書かれており、タイトルは「Save the whales, again (クジラ保護・再出発)」(Nature 565:133, 2019)とこちらも脱退はクジラ保護に良い影響があることを臭わしている。

両誌が評価したポイントを箇条書きにすると、

1)IWCが設立されてからクジラの数が急速に回復しており、現状でクジラの生態保護は達成できている。

2)これまで日本の捕鯨の半分以上は南氷洋での調査捕鯨による捕獲で、南氷洋での捕鯨が中止されると、近海捕鯨でこの量を上回る可能性はほとんどない(ただ、日本や韓国近海で夏に出産するJ-Stockと呼ばれる集団については注視が必要)。

3)我が国の脱退によって、IWCが文化や倫理についての終わりのない議論をやめ、例えばクジラと船の衝突などの新しい科学問題に集中できる(年間なんと30万頭の、クジラ、イルカ、シャチが船や漁網など人工物により死亡しているらしい)。この結果、新しいクジラの生態保護に向けた取り組みに着手できる。

4)我が国政府はこれまで以上に捕獲数を増やさないと約束している(実際は減ると予想される)。

になる。

もちろん、IWC脱退がクジラにとってはグッドニュースとタイトルをつけているのは皮肉もあるだろうが、重要なのは科学という目を通すことで、新しいコンセンサスを得る可能性が生まれることだ。

倫理、文化、政治議論は、民主主義的手続きと言っても、結局最終的には多数決以外にコンセンサスを得る方法がない。一方、科学は実験や調査を元に議論することで、多数決に頼らず、実験や調査による証拠を積み重ねることでコンセンサスを得る可能性がある。

最近両誌は、様々な社会問題についても科学的にアプローチする研究を積極的に掲載して、21世紀の問題を科学で解決しようという強い意志を示していると私は思っているが、今回の記事はその一貫した態度を反映した論説だと評価したい。