雑誌Natureの編集者が選んだ2019年科学界の注目点

(写真:ロイター/アフロ)

年末はScienceが選んだ2018年の10大ブレークスルーを紹介したので、元旦はNatureが掲載した2019年科学の注目点を紹介する (What to watch for in 2019(2019年に何を注目すべきか?)565:13, 2019)。

記事の順序に従って紹介する。短い記事だが、雑誌のエディターが2019年をどのように期待し、また構えているかがよくわかる。ただ、内容は私がかなり脚色している。もちろん間違って伝えてはいないと思うが、その点を理解してほしい。またそれぞれの項目について、私の感想を「声」として述べてみた。

極地プロジェクト

米国と英国が南極の氷河の中でも最も動きのはやいThwaites 氷河が次の数十年で崩壊する危険があるかどうか、共同研究を今年のはじめから始める。これには、自動潜水艇のセンサーだけでなく、アザラシにつけたセンサーが使われる予定だ。 年の後半には、Little Dome Cと呼ばれる氷床を、150万年前に形成された氷の核にまで掘り進み、最も古い氷に記された当時の気候や大気の状態を調べる予定にしている。

声:トランプに代表される反科学的政治プロパガンダの影響力を削ぐために、南極は重要な研究フィールドになりつつあると思う。

大型研究予算

購買力平価で換算して、中国が世界最大の科学技術予算支出国になる可能性がある。研究の質では米国のレベルにはまだまだ及ばないとはいえ、2003年から続く躍進は止まらない。EUも共同プロジェクトHorizonEuropeに2021年より1300億円の支出を決めている。このプロジェクトへの英国の関与についてはわからないが、科学の発展なしに地域の発展はないという気持ちが伝わる。

声:昨年問題になった、我が国の研究水準の低下の理由もよくわかる。未来より現在を重視した政治家や企業に支えられたアベノミクス7年間は、我が国の研究力低下を大きく後押ししたように思える。その上に、借金だけが積みあがってきた。おそらく金利上昇局面になれば、当然のように科学予算は削られると思う。すでにポピュリズム大統領が就任したブラジルで科学予算は大幅にカットされた。その意味でも、若者には、また留学を考える時代がきたと説いている。

人類の起源

今年はアジアが熱そうだ。2003年、謎めいた小人の骨がインドネシア・フロレンシス島発掘されたが、フィリピンルソン島での発掘が進むことで、島に隔離された人類からフロレンシスのような小人が生まれる可能性が示されるか注目されている。

声:とはいえ、私はホモ・サピエンスの起源のアフリカに今年も注目する。

巨大加速器計画の躓き

わが国の高エネルギー物理学の悲願だった、ヒッグス粒子研究が可能な巨大加速器(リニアコライダー)の東北への誘致は、政府の支援を得られなかった。正式には3月に最終決断が示されるというが、可能性は少なそうだ。ただ日本以外に真剣に誘致を考えていないようで、将来に赤信号がついた。

声:私事になるが、岩手の温泉で前高エネ研所長の山田先生にばったり会ったことがある。リニアコライダーの調査のためにほとんど岩手で過ごしているとのことだった。我が国の財政さえしっかりしておれば、こんな結末にはならなかっただろう。残る可能性は、中国が誘致に手をあげて、このプロジェクトが科学助成問題から防衛問題へ格上げされる可能性だろうか?

ヒト受精卵遺伝子編集の影響

昨年暮れ飛び込んできた、遺伝子編集を受けた子供の誕生のニュースは大きな議論を呼んだ。編集の成否については調査中とのことだが、特に編集の正確性や有害性などについて責任を持って調査し、公開することが求められる。同時に、臨床応用の際に考えられる問題点をさらに明らかにし、全ての臨床試験が正しい規制のもとで責任をもって行われるための枠組みを作ることが求められる。

声:倫理問題は全て相対的だ。やる、やらないではなく、どうしたら可能かを議論してほしい。

科学雑誌の新しいプラン

科学雑誌の支配力と価格の高騰に対して、EUの研究助成当局を中心にコンソーシアムが形成され、昨年プランSが合意された、研究論文を基本的にオープンアクセスにするためのこのプランに対して、出版社の正式見解が今年出されることになる。示されたプランは出版社の死活に関わるため、結論は簡単に出ないのではないだろうか。

また、オランダでは、これまで科学研究の評価に使われてきたcitation indexやインパクトファクターを使わない評価システムを模索し始めた。

声:個人的には、コネも金もなく研究室を主宰し始めた熊本時代、Natureに論文を発表して様々な助成金をもらえるようになったことはありがたかった。弊害もあるが、コネで決まるよりはずっといい方法だと今でも思う。

生物実験安全基準

2004年策定された現行のWHO生物実験安全基準の最初の改訂版が発行される。今回の改定では、実験ごとのリスク算定及び、実験室のマネージメントや研究に重点が置かれているが、杓子定規ではない、フレキシブルな基準の運用を目指している。

声:確かに、研究に携わる若い人の安全性への意識は、マニュアルを守ればいいと受身的になっているように思う。

気候操作

結局炭酸ガス排出の勢いを止められない。そこで、地球を冷やそうというプロジェクトがスタートしている。成層圏に粒子を散布して地球に届く太陽熱を遮り地球を冷やすというプロジェクトだ。今年に予定される米国政府のゴーサインは出るのだろうか・

声:トランプ好きのプロジェクトに思えるが。

大麻への高まる期待

カナダは昨年嗜好目的も含めてあらゆる大麻使用を合法化し、これに伴い大麻中毒研究に対する政府助成は今年全て中止される。一方、今年の終わりには、Guelph大学では、大麻のあらゆる側面を研究する世界初の大麻研究センターが設立される予定になっている。

声:脳に効果がある以上、子供には禁止すべきだと思う。

宇宙からのシグナル

中国で500mの半径を持つ世界最大の電波望遠鏡が稼働する。日本円にしてほぼ190億円のプロジェクトだが、50の異なるパルサーを標的にして、最初の放射線爆発を解明しようとしている。 もう一つ期待されているのが、ハワイ・マウナケアの30m望遠鏡で、設置に必要な法的問題は昨年全てクリアされた。

声:役に立たないことに金を使う中国、役に立たないと金を使わない日本。

多くの話は私も全くフォローしていなかった。流石に科学雑誌のエディターは、多くのことに目を配り、興味の商店も一般とはかなり違うことがよくわかる。多fだ 我が国にとっては、なんとなく暗い年の幕開けを感じさせる記事になってしまている。これをはね返せるのは若い力だけだ。 「国が冷たい時には、外国を選べばいい」というのが科学の世界だ。積極的に留学しよう。