診断できない病気を減らす努力

(写真:アフロ)

ミトコンドリア病や、小児の遺伝子疾患の患者さんや家族の方と話してみると、最終的に診断が下って明確な病名がわかるまで大変な時間がかかり、様々な医療施設を転々とされている場合が多いことを知ることができる。

医療のスタートはまず診断により病気をカテゴリー化して、それに合わせた治療を行うことなので、病名がわからないことは医者にとっても、患者さんにとっても大きなストレスになる。医者がこれを避けようとすると、適当な診断名をつけて、対症療法を続けるしかない。あるいは、専門医を紹介することになるが、そこで確実に診断がつくとは限らず、患者さんにとっては、診断名を求めて医療機関を転々とするしかなくなる。

ただ医師の側も、このような状況を放置しているわけではない。常に新しい検査法を開発し病名をつける努力を怠ってはいない。特に米国では、このような診断がつかない患者さんを、医療界が一丸となって診断しようとするためのUndiagnosed Diseases Network(診断困難疾患ネットワーク)が2014年に組織化された。

このコンソーシアムでは2014年から米国NIHの助成を受けて全米から送られてきた診断のつかない患者さんを再検査して診断するための努力を進めているが、まず2015年までの1年間に送られてきた1519人の患者さんのうち、インフォームドコンセントが得られた601例について行った試験研究の結果が11月29日号のThe New England Journal of Medicineに掲載された(Splinter et al, Effect of Genetic Diagnosis on Patients with Previously Undiagnosed Disease (これまで診断がつかなかった患者さんの遺伝子診断の効果)The New England Journal of Medicine 379:22, 2018)。

タイトルでは「遺伝子診断の効果」となっているが、このコンソーシアムではゲノム解読に基づく遺伝子診断は言うに及ばず、血液や尿の代謝物を網羅的に調べるメタボロームと呼ばれる検査、専門家の会議、そして新しい遺伝子変異が発見された場合、それが病気の原因になるかどうかを機能的に調べるショウジョウバエやゼブラフィッシュを使った検討まで行っている。ここまで徹底した取り組みにはかなりの費用がかかるはずで、米国衛生局の本気度がよくわかる。

さて結果だが、箇条書きにまとめてみた。

1) 診断の難しい患者さんの半数以上は小児で、また4割が神経症状が中心の病気、1割が筋肉や骨の症状が中心の病気だった。たしかに、小児の多くの神経症状は診断が難しく、また全身の筋肉痛なども正確な診断が難しいケースが多い(個人的感想)。

2) コンソーシアムに相談する前に、3割の患者さんがエクソーム解析を行っており、米国での遺伝子診断の普及度を示しているが、同時に一施設だけではゲノム配列がわかっても正確な診断を下すことが難しい場合も多くあることを示している。

3) 一人平均200万円をかけて徹底しても、解析が終わった382例のうち132例(35%)しか診断がついていない。

4) そのうち、タイトルからわかるように、ゲノム解読により診断がついた例は74%もあり、遺伝子解析の重要性を物語っている。42%はタンパク質に翻訳される遺伝子部分のみを解読するエクソーム解析で、24%はゲノム全領域を調べる解析で診断がついている。全ゲノム解析を行った中の半数はエクソーム解析だけでは診断がついていない。

5) とはいえ、専門家が集まり議論することで、ゲノム解析を待たなくても2割程度は遺伝子に頼らず診断ができる。

6) 多くは病気の原因としてすでにリストされていた遺伝子の変異による病気だったが、16例の全く新しい病気も発見された。このうち15例はこれまで知られていない遺伝子の変異による病気だった。

7)新しい遺伝子の中には、病気との関わりをショウジョウバエを用いた機能的実験で明らかにできた例もあった。

8) 診断には平均で200万円近くの費用がかかっているが、診断を求めて転院を繰り返したり、間違った治療を受けるコストから考えると、全体の医療費は下げられるという試算も提出している。

他にも新しい病気についてより詳しく述べられているが割愛する。

個人的印象だが、米国の医療界が診断をつけられない病気があるという事実に真剣に向き合っていることがよくわかった。さらにゲノム解析が希少疾患診断の最初の選択肢になっていることを改めて思い知った。おそらくどちらも、我が国の取り組みは10年遅れているのではないだろうか。だとすると、病名を求めて医療機関を転々としなければならない患者さんの苦労はまだまだ続きそうだ。