ハイエナは、広々としたアフリカの草原で出くわしても、いつも物悲しい表情をしている。まず筆者がアフリカで撮影したオスとメスのハイエナの写真を注意して見てほしい。左側のオスの股間から察するに、交尾に及ぼうと構えている瞬間だ。当然精力みなぎる興奮の瞬間なのに、表情にはメランコリーが漂っており、不思議な雰囲気だ。

アフリカ草原のサファリでも、あまりハイエナは注目されないが、面白い特徴が多く存在する。例えばハイエナは群れで暮らすことが多いのに、珍しくオス・メスのサイズが同じだ。普通、強いオスがメスを支配する動物では、オスの体格がメスより大きい。このことから、ハイエナの場合、メスが群れを支配していると考えられていた。メスの場合生殖機会は一回だけなので、オスを争うことがない。一方、オスも生殖に競争が必要無ければ力を競う必要はない。ハイエナの社会についてのこれまでの観察研究でも、群れのトップは常にメスである事が観察されていた。

ところが、20年以上ハイエナを観察し続けこれに異を唱えたのが、ドイツ ベルリンにあるLeibniz Institute of Zoo and Wildlife Research(動物園と野生生物研究所)のグループで、11月19日、Nature Ecology & Evolutionに論文を発表した(Vullioud et al, Social support drives female dominance in the spotted hyaena(社会的指示がハイエナ社会の女性優位を形成させている)Nature Ecology & Evolution, 2018: https://doi.org/10.1038/s41559-018-0718-9)。

著者らは長年の観察から、ハイエナ社会がメス優位の社会に見えるのは、実際には競争が起こるときに、メスの方が親しい味方と一緒にいる確率が高いせいではないかと直感し、この仮説を調べるため丹念な観察を行った。

研究では8つの群れで起こった748回の個体同士の競合の状況を細かに観察し、勝負を決めた条件を調べている。

ハイエナでは、メスは生まれた群れを離れないが、オスは離れて流れ者になり、その後他の群れに合流することが多いことが知られている。近親間相姦が繰り返されるのを防ぐなかなか合理的な本能だと思うが、要するに群れの中のオスの多くはよそ者で、メスだけが親戚といった構成になっている。この構造を考えると、一対一の競合が起こるときの個体間の関係は、1)群のメンバーのメスと流れ者のオス、2)群のメンバー同士の個体同士(同性同士、異性同士の両方の場合がある)、3)流れ者のオス同士(流れ者はオスしかいない)、そして4)異なる群の個体同士の4状況が考えられる。

この研究では、競合が起こった時周りにいる個体の状況を丹念に観察し、勝負が決まる条件として組み入れたことが新しい(すなわち、これまでの研究では性別と勝ち負けだけをカウントしていたことになる)。しかし、社会構造を組み入れて判断すること自体大変な作業だ。実際、群れの中の個体間の序列や関係性を知るために、この研究室はなんと21年間、8世代にわたって同じ地域のハイエナの観察を続けている。

さて結果だが、予想通りで、どのような組み合わせでも、近くにいる親しい仲間の支援が勝負の成否を決めている。逆に、周りに仲間がいない一対一の競合では、結果は全く予測できず、同じ群れのメンバーのオス・メスが競合した場合、全くメス優位ではなく、50/50の関係であることが分かった。

この結果から、これまで一対一の勝負を見てメス優位と結論していたのは、個体間の序列を反映しているのではなく、メスは全て群れの中で育ってきた親戚だが、オスの多くはアウトサイダーであるというハイエナ社会の特徴を反映していただけだという結論が導かれる。もう少し説明すると、ずっと群れで暮らしてきたメスと比べ、オスの多くは後から群れに合流した流れオスのため仲間が少なく、オス・メスの競合になると当然味方の多いメス優位になるというわけだ。事実、群のメンバーで身内同士のオス・メスの間ではメス優位の法則は全く見られない(それでも他の動物と比べるとかかあ天下と言えるが)。

以上はハイエナでの結果だが、同じことは人間にも言えるのかも知れない。人類進化では、直立原人誕生とともに男女の体格差がほとんどなくなる。これは一夫一婦制が始まったせいかと単純に考えていたが、他の可能性も十分あることがわかった。直立原人が誕生した当初は、おそらく肉や骨も狩で手に入れるのではなく、ハイエナのように拾い集めていたのではないだろうか。とすると、身近な仲間の数を重視したハイエナ型社会構成さえ築ければ、女性優位社会が形成され、男女の体格差がなくなることは十分あり得る話だ。

なかなか楽しい研究で納得したが、タンザニアの草原で20年以上ハイエナの群れを観察し続けた研究室と、それを支えたスポンサーに拍手したいと思う。