象は体が大きく細胞の数も多いのになぜガンの発生が高くないのか?

(写真:アフロ)

アフリカゾウの体重は大人で6トンと人間の100倍、新生児で100Kgと人間の30倍と巨大だ。体が大きいと、細胞数もそれに比例して大きいはずで、象の妊娠期間は二年だが、それでも足りないのではと心配する。多くの細胞を作るということは、多くの細胞分裂が起こるということだが、発ガンという観点から見ると、分裂回数が多いということはガンのリスクが高いことになる。というのも、ガンの原因になるDNAの傷(変異)の多くが、細胞分裂時DNAを複製する時に起こるコピーの間違いに起因することがわかっているからだ。従って、ガンの頻度は体の大きさに比例してもいいはずで、象でガンが多発しないとすると、私たち人間にはない特別なメカニズムを象が持っていることを示唆している。

この象が開発した新しいガン抑制メカニズムの一端が、シカゴ大学の研究グループにより明らかにされ、論文で8月14日号のCell Reportsに発表された(A Zombie LIF Gene in Elephants Is Upregulated by TP53 to Induce Apoptosis in Response to DNA Damage(象ではゾンビのように蘇ったLIF遺伝子がDNA損傷によるTP53により活性化され細胞死を誘導する))

この研究では象だけが持っている遺伝子の中に、このメカニズムを解く鍵があると考え、多くの哺乳動物のゲノムを比べた。そして、ほとんどの哺乳動物ゲノムには1組しか存在しないLIF(LIFはiPSのような多能性幹細胞を試験管内で増殖させるために必須の分子)をコードする遺伝子が、ゾウでは数が増え、アフリカゾウでは10組以上存在することを発見する。

次に手に入る様々な象の細胞を調べ、この数の増えたLIF遺伝子の中の一つ、LIF6だけが、アフリカゾウやインドゾウ由来の細胞の中で作られていることを明らかにする。

試験管内で増殖している細胞株を用いた実験で、LIF6は細胞のDNAが傷ついた時に誘導され、細胞を殺してしまう働きがあることがわかった。すなわち、傷ついた細胞をいち早く殺してしまうことで、ガンを防いでいることになる。しかも、すでに絶滅したマンモスやパレオオクソードンなどの象のゲノムにも存在することから、体の大きな象が進化する過程でおそらくガンの発生を抑えるために獲得した重要な遺伝子だと結論している。

話はここまでだが、この論文を読んで思い出すのは、以前私自身のブログで紹介した、長生きのためには傷ついた細胞を積極的に殺したほうがいいという論文だ。この論文では、老化した細胞を積極的に殺す仕掛けを遺伝子に組み込んで、傷ついた細胞を除去していたが、象は進化の過程で全く新しい方法をあみだして同じように傷ついた細胞を除去している。従って、ガンの発生を抑えるだけでなく、象の長寿もLIF6のせいかもしれない。進化の巧妙さにまた感心した。