アスピリンがアルツハイマー病の進行を抑えるメカニズム

(写真:アフロ)

薬剤を開発する場合、できるだけ分子標的を絞り、他の分子への作用が無いような化合物を選ぶ努力が払われる。これは副作用を懸念するからだが、「副作用」とは読んで字のごとく、意図しない作用があるということで、副作用=悪い作用と決まったわけではなく、思いもかけない良い作用が見つかることもある。特に、長く利用されてきた薬剤に良い副作用が発見されることが多い。この代表が、アスピリン、スタチン、メトフォルミンで、これまで知られなかった効果の発見に関する論文が現在も発表され続けている。

中でもアスピリンの効果はまるで万能薬と言っていいほどだ。発熱鎮痛効果に加え、現在では血栓防止効果、動脈硬化防止効果、一部のガンの予防効果などが大規模調査で確かめられている。さらに最近ではパーキンソン病やアルツハイマー病にまで効果があるという報告が見られるようになっている。

これまで、これほど多様な効果の背景には、アスピリンの炎症を抑える作用があると理解されて来た(アスピリンの作用は、炎症物質プロスタグランジンの合成酵素シクロオキシゲナーゼを抑えることで発揮されることが知られている)。そして、アルツハイマー病やパーキンソン病でも、病気を促進する要因として炎症があると考えられており、アスピリンが一定の効果を持ってもいいと思われていた。

ところが今日紹介するシカゴのラッシュ医科大学からの論文は、アスピリンがシクロオキシゲナーゼではなく、PPARαという遺伝子発現の調節因子を活性化して、細胞内外の老廃物を処理するリソゾームの作用を高めアルツハイマー病を予防するというアスピリンの新しい作用メカニズムを提案し、このおかげでメカニズムが理解しやすくなった(Chandra et al, Aspirin induces Lysosomal biogenesis and attenuates Amyloid plaque pathology in a mouse model of Alzheimer’s disease via PPARα(アスピリンはPPARαを介してリソゾームの生成を誘導し、マウスのアルツハイマー病モデルでアミロイドプラークを減少させる) Journal of Neuroscience in press, 2018:DOI: 10.1523/JNEUROSCI.0054-18.2018)。

この研究では最初からアスピリンが、アルツハイマー病の一つの原因、アミロイド分子の沈殿による凝集塊(プラーク)形成と除去に関わるリソゾームの能力が高まるためではないかと仮説を立てて研究している。すべてはマウスの話なので、そのまま人間にも当てはまることは保証できない。ただ、繰り返すがアスピリンにアルツハイマー病抑制効果があるとする疫学調査は報告されている。

実験では、まず脳からアストロサイトと呼ばれる細胞を取り出しアスピリンを加えて培養すると、期待通りリソゾームの数が5倍以上に上昇し、この合成に関わる分子が軒並み高まっていることを発見する。すなわち、炎症とは関係なく、直接アスピリンがアストロサイトのリソゾームの合成をあげ、細胞の老廃物処理能力が高まっていることを明らかにする。

リソゾーム合成経路はよくわかっており、この合成が高まっていることが確認できれば、あとはリソゾーム合成に関わる分子をたどればいい。最終的に、PPARαと呼ばれる内因性の脂肪酸と反応して活性化される分子が、リソゾーム合成を高めるマスター遺伝子TFEBの発現を高め、結果としてリソゾームの合成が高まることを明らかにしている(この詳しいメカニズムは一般の方は読み飛ばしていただいていい)。

アスピリンがPPARαを介してリソゾーム合成を高めることがわかったので、最後にアミロイドプラークの除去にもこの機構が関わっていないか、アミロイドが蓄積するマウスモデルを用いて調べている。結論は、アスピリンは、アミロイドの細胞内での合成を抑え、細胞外のアミロイドプラークを除去する能力を高めることを明らかにしている。

私が見る限り、データははっきりしており、結論は納得できる。

まとめると、シクロオキシゲナーゼとは違う分子標的を介して、アスピリンはアミロイドプラーク形成を抑え、またその除去能力を高め、アルツハイマー病を予防するという結果だ。しかし、このメカニズムが正しいと、ほかの神経変性性疾患にも当然効果があると思う。

繰り返すが、これはマウスでの研究だ。今後iPSを用いたり、大規模治験を行うなどして、効果が本当か確かめてほしいと思う。それほど、高齢化社会を迎えた先進各国にとって、アルツハイマー病克服は待った無しの課題になっている。