喉の渇きを感じるのは、私たちの体の中に体液の量や浸透圧を測るセンサーがあって、そこからの情報に従って渇きの中枢を刺激したり、抑えたりして水を飲む量を調節できるからです。例えば、出血で体液全体が失われた時など、水を飲むだけでなく、塩分も同時に取らせることが本能的にできるような回路が脳内にできています。この渇きと行動の回路については研究が進んでおり、レニン、アンギオテンシン系と呼ばれる一種のホルモンが重要な役割を演じていることがわかっています。例えば塩分を取りすぎたり、あるいは出血で体液が失われると渇きを感じるのはこのメカニズムが働いていると思われています。

しかし、浸透圧も上がらないし、体液も増えないのに喉が渇くことがあります。例えば、お酒を大量に飲んだりした時がそうですが、結局お酒が水を奪うから、あるいはお酒と一緒に多くの塩分を取るから喉が渇くと説明されていました。

しかし、いつの頃からか流行りだした、ケトジェニックダイエット(炭水化物が利用できないことを体に察知させ、脳に必要なエネルギー供給源を脂肪にシフトし、いやでも脂肪が消費されるように体を仕向けて脂肪を燃やすダイエット)でも渇きを覚えることが多いことが気づかれはじめました。この時も喉が渇くのですが、これはケトアシドーシスという状態が喉の渇きを誘発していることがわかっています。体液量や電解質の量は変わらないので、ケトン体が直接関わるこれまで知られているのとは異なるメカニズムで渇きの脳中枢を刺激するのではと考えられて来ました。

ケトン体は脂肪を燃やすのを促進し運動機能を高めることから、最近特に研究が進んでいます。この結果、ケトジェニックダイエットの効果の一翼を担うのが、FGF21と呼ばれる肝臓から分泌される一種のホルモンである事がわかってきました。ケトン体というとアルコールが思い出されますが、アルコールも強いFGF21の分泌刺激作用がある事も明らかになってきました。

そこで、喉の渇きとケトン体やアルコールで刺激されるFGF21の関係を探ろうとしたのが、ダラスにあるサウスウェスタン大学の研究グループで、Cell Metabolismに論文を発表したので紹介することにします(Song et al , The hormone FGF21 stimulates water drinking in response to ketogenic diet and alcohol(FGF21はケトジェニックダイエットやアルコールに反応して分泌され、水の摂取を促進する), Cell Metabolism 6月号in press, 2018, https://doi.org/10.1016/j.cmet.2018.04.001)。

この研究では最初から犯人はFGF21と決めてかかっていますから、まずマウスにFGF21を注射して喉が渇くかどうか、水を飲む量で調べています。結果は期待通りで、なんとFGF21を注射したマウスでは水の摂取が普通の3倍にもなります。詳しくは述べませんが、この渇きはこれまで知られていたレニンやバソプレシンが関わる経路とは全く違う、独立した経路であることを確認しています。

次は、FGF21が全身、あるいは肝臓だけで欠損したマウスを用いて、アルコールを飲んだ時の喉の渇きが、FGF21を介していることもわかりました。次に、ではFGF21が脳の渇きの中枢に直接作用するのかも調べ、FGF21が渇きを感じて水を飲む行動につながる脳回路を直接刺激することも明らかにしています。

そして最後に、人間のボランティアにアルコールを飲んでもらって、アルコールが直接肝臓に働きかけてFGF21を分泌させることも示しています。

お酒を嗜まれない方にはどうでもいいことだと思いますが、アルコールの作用についてまだまだわかっていないことがこんなにあるのかと驚きました。人間の生理を理解するためには、まだまだ時間がかかりそうです。