一晩徹夜するだけで、アルツハイマー病の原因物質アミロイドβの蓄積が高まる

認知症のMRI像(写真:アフロ)

睡眠の効用

この数年、私の睡眠時間は5時間前後を保っています。旅行にでも出ない限り、5時間ぐっすり寝られるので、特に短いと思ったことはありませんでした。ところが最近、睡眠時間が短いとアルツハイマー病のリスクが高まることを示す論文が目に止まり少し気になっています。というのも、もともと睡眠はその前に経験したことをもう一度復習し直して必要なものだけ長期記憶として残す重要な役割がありますが、これに加えて2013年私のブログで紹介したように、睡眠は覚醒時に脳に溜まった様々な老廃物を排出する機能を担っていることが広く認められるようになってきました。これが正しいとすると、アルツハイマー病で脳細胞を障害する重要な原因として考えられているアミロイドβ(Aβ)の脳外へ排出する量も、睡眠が短いと減ることになります。

ただ、これらは長い時間かけて溜まったAβのことで、「チリも積もれば山になる」といった類の話だと思っていました。ところが1日睡眠を妨げられて徹夜するだけで、脳内のAβ量の蓄積が亢進するのを現在の技術で検出することができるという、恐ろしい論文が米国国立衛生研究所から米国アカデミー紀要にオンライン発表されたのです(Shokri-Kojori et al, β-amyloid accumulation in the human brain after one night of sleep deprivation(一晩睡眠が妨げられると人間の脳内にβアミロイドが蓄積する), PNAS in press,2018: www.pnas.org/cgi/doi/10.1073/pnas.1721694115)。

研究の概要

研究では平均年齢40歳、20人の健康な男女の脳内Aβの蓄積場所と量を、フッ素同位元素でラベルしたflorbetaben(Aβに結合する)を指標にして、アイソトープの存在場所(=Aβの存在場所)をPET検査で画像化して調べています。PETを使えば、脳のどの場所に蓄積が見られるかわかりますが、この研究では徹夜前と後で引き算して、徹夜によって起こったAβの変化だけを調べています。このため測定は一回目は普通に寝た後、そしてもう一回目は夜10時から7時まで看護師さんの監視のもと一睡もできずに30時間起きていた後と、二回行われ、両方の画像を比較して、Aβがどこにどの程度蓄積しているのか調べています。

繰り返しますが驚く結果で、一晩徹夜するだけで、アルツハイマー病で障害される、海馬、海馬傍回、そして視床の3つの領域でAβの蓄積が検出できます。なぜかわかりませんが、海馬では特に右側に多く蓄積しているようです。重要なことはこの上昇が、年齢、性別を問わず一人を除いて19人に観察される点です。ほぼ全員に一晩徹夜するだけで、海馬のような記憶に大事な場所にAβが蓄積するとはショックです。

誰でも徹夜すると機嫌が悪くなるなど気分が変化しますが、気分の変化が大きいほどAβの蓄積が高いこともわかりました。なぜこれほど短い期間におこるAβの蓄積が検出できるのかこの結果だけからはわかりませんが、徹夜により老廃物の排出が抑えられるからと考えるとつじつまが合うように思います。

この研究でも、これまでの研究と同じように、一般的なアルツハイマーリスク要因としての自己申告による睡眠時間とAβの蓄積の相関も調べています。面白いことに、日常の睡眠時間の長さと逆の相関が見られるAβの蓄積場所は、被殻、海馬傍回、そして右の楔前部で、徹夜で蓄積する部位とは違うこともわかりました。

結局私も含めて専門外の人間にはわかりにくい結果になりましたが、おそらくアルツハイマー病でのAβ蓄積は、様々な要因が合わさって進んでいくのだと思います。とはいえ、徹夜は禁物で、長く寝るに越したことはないことは間違いないのだが、個人的には守るのは難しそうだ。