ヨーロッパ植物学の伝統が地球温暖化の深刻さを明らかにした。

ドロミテの高山植物(写真:アフロ)

この歳になって一番嬉しいのは、若い学生さんへの講義を頼まれることです。自分自身はすでに引退して研究をしているわけではないので、自分の研究の話をすることはできません。そのかわりに、自分で考え、周りに影響されず、21世紀の科学を切り開く若者が一人でも多く生まれることを願って、近代科学誕生から、ダーウィンを経てゲノム情報科学が生まれた「過去」、特に人間についての情報が統合される「現在」、そして生命や言語誕生などの情報の自然発生が理解される「未来」について話をすることにしています。

ただ、周りに影響されないオンリーワンの研究者を目指しても、科学の世界は競争することだけではないことも理解して欲しいと思っています。その意味で、「現在」について教えるとき、記録し続けるコホート研究の伝統と、コレクティブインテリジェンス(集合の知)について話をします。コホートで言えば、2014年に私のブログで紹介した「外国語ができるとボケにくい」という論文では、なんと1936年に調査を始めた研究が2014年に論文として発表されています。まちがいなく、研究の当事者も何代かにわたって研究を続けているのです。わが国でも南極探検や天文観察など、大型プロジェクトにはこのような例はたしかにあります。しかし、このような連帯感が最近特に薄れてきたような気がしています。

今日とりあげたい論文は、欧州の山々の頂上の植物相と気温を、なんと19世紀、我が国で言えば明治維新から最長145年にわたって観察し続けた記録をもとに行われた研究で、欧州の様々な大学が共同で4月12日号のNatureに発表した論文です(Steinbauer et al, Accelerated increase in plant species richness on mountain summits is linked to warming(山の頂上で起こっている植物種の増加の加速は温暖化と関連している), Nature 556:231, 2018:doi:10.1038/s41586-018-0005-6)。

おそらく約150年前にこの調査を始めたときは、人為的な影響で地球が温暖化するなど、研究者といえども誰も考えなかったと思います。しかしこの調査を始めた一人、Braun Blanquetさんは、山の頂上は地理的には一定であることから、植物種の多様性が安定しているため、地球全体の変化を敏感に反映しているのではと見抜いて、この研究を呼びかけています。そして、この考えに賛同する植物学者がヨーロッパ全土から集まり、302のヨーロッパの山々の頂上での調査が、早い場合は1871年(明治3年)から現在まで続けられることになりました。

この連帯の経緯を示そうと、論文ではこの観察の創始期をリードした研究者の顔写真や当時の活動の様子を写した写真が掲載されています。

さて、結果についてですが、詳しく述べる必要はないように思います。皆さんが想像されるように、すべての山頂で平均気温が上昇し、それと並行して山頂で見つかる植物種の数の増加が加速していることがわかりました。そして、この増加の速度は、2000年以降に急速に上昇し、1950-60年代に見られた増加の速度と比較すると、5倍以上になっていることを示しています。

ほぼすべての山頂で温度の上昇が見られるので、温暖化はまちがいないのですが、この研究の重要性は、これにより植物相の様相が一変してしまうことを示したことです。実際、種の多様化の速度は最近落ちてきています。このことは、高い高度の植物と、低い高度の植物が温暖化により共存していたのが、いまや低い高度の植物でおきかわりつつあることを示しています。温度が高くなってサイズの大きい、葉っぱの大きな植物が急速に優勢になってしまうと、寒さに耐える植物は淘汰されてしまいそうです。

この研究は、気温と生物の関係を明確に私たちに突きつけ、温暖化の深刻さを教えてくれる恐ろしいメッセージの論文です。しかし一方で、科学者の連帯の伝統がこれほどのことを可能にすることも教えてくれました。わが国でも、是非科学者間の連帯が深まって、伝統として受け継がれていくことを祈っています。