血圧の測れるスマートフォンの開発

(ペイレスイメージズ/アフロ)

スマートフォン(スマフォ)のユーザーが全世界でなんと30億人を超えたと聞く。まさにアップルの仕掛けた生活革命が進行していると言っていい。便利だからこれだけの人が使うのだが、これは携帯電話の比ではない。カメラ、マイク、モーションセンサー、GPSは言うに及ばず、指圧センサー、さらには脈波を測るための光プレチスモグラフ(PPG)を搭載した機器まで発売されている。それが情報を知らせるコンパクトなモニターやスピーカーと組み合わさっている。

これだけの力を持つスマフォだ。この能力を医学が放っておくはずはない。すでに米国NIH(国立衛生研究所)は医療や研究の重要なツールとして位置付け、Mobile Health Training Institutesを2011年から設立し、医師や研究者にスマフォを使った様々な新しい技術を教育している。もちろんスマフォは医師向けの健康管理だけでなく、一般向けの健康管理ツールとしてもっと相性がいい。結果、一般の健康管理分野は健康ライフログ・アプリを始め、多くの企業が入り乱れ競争を繰り広げている。

ところが、健康管理の入り口と言える血圧測定ができるスマートフォンは未だ実現していなかったようだ。

そしてようやく、ミシガン州立大学から、正確な血圧測定装置を実装したプロトタイプのスマフォ開発成功の論文が、医学研究分野ではトップジャーナルの一つScience Translational Medicineに掲載された。(Chandrasekhar et al, Smartphone-based blood pressure monitoring via the oscillometric finger pressing method(指を押し付けて血流振動を計測することでスマートフォンを用いて血圧をモニターする) Science Translational Medicine 10: eaap8674, 2018: DOI: 10.1126/scitranslmed.aap8674)。

血圧がスマートフォンで測定できていなかったと聞いて驚く方も多いだろう。私も最初この論文がどうしてScience Translational Medicineのようなトップジャーナルに掲載されたのかと驚いた。この研究で開発された装置では、PPGを用いた脈波センサーと圧力センサーを組み合わせて血圧を測定しているが、それぞれのセンサーは例えばサムスンのギャラクシーなどで実装され、PPGは心拍数測定に利用されている。

またスマフォではないが、PPGを使った血圧計(オシロメトリック)も存在するようだ。しかし血圧測定では収縮期圧と拡張期圧の両方を測定する必要がある。皆さんもご存知のように、血圧測定では上腕に巻いたカフに空気を注入した後、徐々に圧力を下げる時、聴診器で音が聞こえた時が収縮期圧、聞こえなくなった時が拡張期圧になる。

従ってPPGを用いるオシロメトリック法でも、血管に圧力を加える操作をスキップして正確な血圧は測れない。これをスマフォにすでに実装されている(別々にだが)センサーを用いてできるようにしたのがこの研究で、確かに将来、スマフォを所有する何億人ものユーザーの血圧を同時に測って集めることができるなら、これは医学の革命でトップジャーナルの興味を引くのは当然だと納得した。

この研究では、PPGセンサーの上に圧力センサーを重ね、指の第一関節を押し付けた後、圧力を加えながら動脈を流れる血液量の変化を測ることで血圧を測っている。要するに、原理はいわゆるオシロメトリック法と同じだ。ただ、空気などで圧力をかけるのでなく、指先にゆっくり力を入れることで圧をかけるようにしたのがこの研究のアイデアだ。

具体的には、スマフォを心臓の高さにあげ、センサーに指の関節を押し当て、動脈を流れる血流量をPPGで測る。この時指先に入った力を圧力センサーで測定し、力を加え始めてから最初に脈波が高まった圧力を拡張期圧、脈波の大きな変動がなくなった時点を収縮期圧としている。じつに簡単な仕組みだ。

この研究ではスマフォに装着できる薄い測定装置を製作し、それをスマフォに内蔵されたものと見立てて、通常の方法で測った血圧と比べながら実用性を検証している。結果として、現在病院で利用されているオシロメトリックな測定器と同等の性能を持っている事を示している。

もちろん、更に改良は必要だが、簡単で、今のスマフォメーカーなら、明日からでも薄い装置の中に実装できるシステムである点がこの論文の売りだろう。

スマフォで血圧が測れる日をちょっと想像してほしい。例えば日本全国で呼びかけに応じたスマフォユーザーが血圧を測ってデータを送る。何百万の血圧がGPSとリンクして瞬時に集められ血圧の日本地図、さらには世界地図まで描けてしまう。これを馬鹿げていると考えるか、興奮するのか?

間違いなく、私は興奮する。