古代史に見る英国とヨーロッパの関係(先史時代、ブレクジットは可能だったのか?)

最初の英国人チェダーマン(写真:ロイター/アフロ)

これまでこのサイトでは、主にネアンデルタール人と現生人類がともに生きている時代についての研究を中心に紹介してきたが、今日は少し後の時代、新石器時代から青銅器時代に進む時代についてのゲノム研究を紹介する。

文化の伝搬には人の移動が必要?

ゲノム研究がもたらした革命により、これまで解けなかったヨーロッパ古代史の謎が次々に明らかにされている。その一つが、現在インド・ヨーロッパ語を話すヨーロッパ人が、現トルコのアナトリア人なのか、黒海東の草原のYamnaya人なのかについての論争で、2015年にNatureに発表されたハーバード大学を中心とする国際チームの論文により、Yamnaya人の移動により現在のヨーロッパ人種がほぼ決定されたと考えられるようになった(Haak et al Nature 522:207, 2025)。この時、言語だけではなく特徴のある縄文土器も同時にヨーロッパ全土に広がった。

また、アナトリア起源の民族移動により、7000年以上前にヨーロッパに農業がもたらされ、この時も専従の狩猟採集民との交雑が進んだことも知られている。

以上の2つの例から、現在文化の伝搬には人の移動と交雑が伴うと考える人が多い。

縄文土器から鐘状ビーカー土器への転換

Yamnaya人がヨーロッパ全土に広がったのは5000年前ぐらいだが、実はヨーロッパではもう一つの文化伝搬の波が起こっている。これが、おそらくイベリア半島を起源とするThe Beaker(鐘状ビーカー土器)と呼ばれる鐘の形をした土器のヨーロッパ全土への拡大で、BC2500年以降に起こったことが知られている。ではこの文化の拡大も人の移動を伴っていたのだろうか?

今日紹介する国際チームの論文は、このThe Beaker文化の伝搬に人の移動が伴ったのか、あるいは文化を知識として伝達することができたのかについて、BC4700-BC800年のものと推定される人骨のゲノムをなんと400人も解析した研究で、先月Natureに掲載された(The Beaker phenomenon and the genomic transformation of northwest Europe(The Beaker現象と北西ヨーロッパでのゲノムの変化)Nature doi:10.1038/nature25738, 2018)。

研究の概要

1000人ゲノムプロジェクトなどと現代人のゲノム解析を推進していたのはついこの前のことだが、400人もの古代人のゲノムが集まるとは、この分野の進展の速さを実感する。この400人のゲノムを、現在のヨーロッパ人、The Beaker文化が広まる前のヨーロッパ人のルーツ、Yamnaya人、アナトリア人などの古代人ゲノムと比べている。

詳細を省いて結論を急ぐと、The Beaker文化を持つ古代人のゲノムは、現代北西ヨーロッパ人のゲノム構造とほぼ重なる点で、おそらくこれ以前に形成されたヨーロッパ各地の人種に大きな変化をもたらせていない。例えばこの文化の起源と思われるイベリア人のゲノムが、この文化の拡大とともに急速にヨーロッパ全体に拡大した痕跡は見られない。

結論としては人の移動を伴わない、文化や知識の伝搬も人類の歴史には存在した。

イギリスは常に大陸人種に置き換わっている

とはいえ、The Beaker土器の拡大と人間の移動が伴った例外の存在も今回明らかになった。それはイギリスでのことだ。

最近、多くのメディアが、英国の先史人として知られるチェダーマンが、色黒、縮毛、碧眼であったことを大々的に報じていたが、これは約1万年前のイギリス人で、その後大陸から来たアングロサクソンにより一度完全に置き換わっている。

今回の研究は、こうして新しく形成されたイギリス人も、2500年以降、中央ヨーロッパに近いゲノムを持ったThe Beaker文化に属する人種で完全に置き換わっていることを明らかにした。イギリスは、大陸からの人種に何度も征服されていることになる。

まとめ

この論文は、文化の伝搬に必ずしも人の移動を伴わないことを示したが、島国イギリスでは同じ文化の伝搬が人の移動と交雑により起こったことも明らかになった。この差が何か、イギリスの先史時代の重要な問題になりそうだ。

同じ島国のわが国も、常に大陸からの影響にさらされていたことがわかっているが、私たちの先史時代が、ゲノム解析により解き明かされるのはいつになるのだろう?