危険な甘さ:果糖の生物学

チンパンジーも甘いもの好き(写真:ロイター/アフロ)

加糖したソーダ飲料は不妊の原因になる

最近Epidemiologyと言う雑誌に、1日1本以上の加糖したソーダ、あるいはエネルギードリンクを飲んでいる男女共、妊娠能力が15-30%程度低下するという驚くべき疫学調査が発表された(Hatch et al Epidemiology, in press, doi: 10.1097/EDE.0000000000000812, 2018)。

研究に参加してくれた人たちの基礎データを見ると、毎日ソーダ類やエネルギードリンクを飲んでいるグループの方が太り気味で、肥満が妊娠能力の低下の原因と言えなくはないが、BMIに極端な差が見られるわけではない。また、ダイエットドリンクを飲んでいる対象には妊娠能力の低下が見られないことから、加糖が直接妊娠能力に影響したと結論している。

果糖と異化性糖

現在、清涼飲料水の加糖に用いられる糖のほとんどは、異性化糖と呼ばれる、デンプンを化学的に処理して果糖の含量を増やしたシロップだ。果糖自体文字通り果物に多く含まれ、摂取後のグルコースの上昇が遅いので、健康的な糖だと考えられた時期もあったが、最近ではこの果糖自体が、肥満や生活習慣病を引き起こす張本人ではないかと考えられるようになった。

果糖と生活習慣病

我が国での状況を把握していないが、米国はコーラ飲料の原産国だけあって、甘いソーダ飲料の消費量は他を圧倒している。例えばカナダと比べた時、一人当たりの消費量はなんと約2倍に達する。

このような加糖された飲料に多く含まれる果糖は、グルコースと同じ6単糖だが、圧倒的に甘味が強く、また低温で甘みが増すので、冷やして飲むソーダにはうってつけの糖と言える。しかし、果糖の含有量を増やしたシロップで加糖した飲料が、年齢を問わず、肥満や糖尿病の原因になることが最近指摘されるようになり、特に加糖された清涼飲料に焦点を絞って各国で規制が強まっている。

疫学と生理学

このように、例えば食品と病気の相関が疫学的に明らかにされても、生理学的因果性については明確でないことが多い。すなわち、相関があっても、生理学的理屈がわからない。このため疫学研究の解釈をめぐって最終的な合意が得られず、意見が対立したまま一般の人を混乱させることもしばしばだ。

例えばタバコはそんな最も分かりやすい例だろう。私が医学生だった頃、タバコが体に深刻な作用があると習ったことも、考えたこともなかった(そして当然のようにスモーカーになった)。その後様々な疫学的調査が発表され、肺ガン、閉塞性肺疾患、心血管障害などとの関連が指摘され、友人に勧められてタバコをやめることになった。

その後、疫学研究の結果に基づき、直接的因果性を求める実験研究が行われ、例えばタバコがDNAの突然変異を誘導することが明らかにされる。さらに実際の患者さんでガンのゲノム検査が行われるようになると、確かにスモーカーの肺ガンは、ノンスモーカーのガンの10倍以上の遺伝子変異があることが明らかにされた。このように、最終的には疫学と生理学的因果性が一致することになるが、これには長い時間が必要で、それまでは議論が続く。

果糖の疫学

果糖についても、疫学的には肥満、糖尿病、脂肪肝などとの相関は証明されたと言っていいだろう。しかし、なぜ果糖のとりすぎが危険なのかについての生理学的因果性は、実はよくわかっていなかったようだ。肥満については、果糖の甘さが満腹感を抑制し、食べ過ぎを促すこと、そしておそらくグルコースより毒性の強い中間代謝物が体内で生成するのではと考えられてきた。

果糖の代謝研究論文

果糖の問題点を理解するためには、まず体内での代謝を詳しく調べる必要があるが、最近発表されたプリンストン大学からの論文を読んで、果糖の代謝研究がこれまでほとんど行われていなかったことを知った。

Cell Metabolismに発表された最新の論文では、アイソトープ(炭素13)で標識したグルコースや果糖をマウスに経口的に摂取させ、体内で生成する果糖やグルコース由来の代謝物を厳密に調べている(Jang et al, The small intestine converts dietary fructose into glucose and organic acid(小腸は食品中の果糖をグルコースと有機酸に転換する)Cell Metabolism 27: 351, 2018) 。

これまで考えられていたように果糖は腸管で吸収後すぐに肝臓に送られ代謝されるのではなく、一定の量であればほぼ全てが小腸で代謝されることを示した、果糖代謝の分野では通説を覆す重要な研究論文だと思う。

研究の概要

この研究のハイライトは、私たち人間が摂取する程度の果糖をマウスに経口摂取させても、血中の果糖がほとんど上がらないという発見だ。これまで、果糖は小腸で吸収され、そのまま肝臓に移行しほとんどが肝臓で代謝されると考えられてきた。とすると、まず血中の果糖が上昇するはずで、それが見られないということは、小腸内で処理されると考えざるをえない。

では食べた果糖はどう処理されるのか?

アイソトープ標識を手掛かりに、果糖由来の分子の出現を追跡すると、大半はグルコースに転換されており、これが果糖を摂取後血中グルコースが遅れて上昇する原因になっている。

同時に、グルコースを摂取した時と比べて多くのグリセレートを始めとする様々な中間代謝物に転換されることを見出している。

もちろん通常私たちが甘み付けに用いる砂糖もグルコースと果糖からできているため、砂糖を添加した食べ物はすべて果糖を食べたのと同じ効果がある。

次にこの代謝経路を追跡し、果糖の代謝のほとんどは小腸の細胞で行われており、最初小腸に存在するケトヘキソキナーゼ(Khk)という酵素によりリンが添加され下流の経路へと流れることを明らかにしている。Khkをノックアウトすると、期待どおり果糖はそのまま血中に入り門脈を通って肝臓に行く。このことから小腸が果糖の肝臓への直接流入の防護壁の役割を果たしていることもわかる。

ただ、この処理能力には限界があり、このレベルを超えると肝臓に直接入って、肝臓で代謝されるようになる。また、一部は腸内細菌で代謝される。

面白いのは、先に果糖を摂取すると、果糖を処理する酵素の発現量が2時間以内に十倍以上高まり、より多くの果糖を小腸で処理できるようになる。しかも、小腸での果糖の処理は、糖代謝の調節の主役インシュリンには全く影響を受けず、別経路で行われる。

前もって果糖をとることで、果糖の処理能力が高まるこという今回の結果が、甘いものはデザートとして食後にとるという生活の知恵と合致しているのには驚く。一方、甘いものは確かに別腹で、食事中に果糖が添加された飲料を摂取することは、糖質を摂り過ぎるだけでなく、肝臓への負担を高めることもわかる。

しかし、なぜ果糖が様々な生活習慣病、特に脂肪肝の原因になるのかについては理解できたわけではない。小腸での果糖の特殊な処理により肝毒性のある中間体が多く生成されることや、果糖自体が小腸や肝臓で、インシュリンでコントロールできない糖代謝の酵素系を誘導してしまうことをその原因として想像しているが、まだまだ研究が必要だろう。

この研究の最も重要なメッセージは、腸内細菌の処理能力も含め、私たちは体の代謝能力について実際にはよく知らないことだ。代謝学的な因果性が明らかにされるまでは、疫学の結果を真剣に受け取り果糖が添加された清涼飲料を控える方がいいだろう。