サピエンスの歴史 I ホモサピエンスの誕生まで

(提供:MPI EVA Leipzig/ロイター/アフロ)

昨年の10大ニュースにも取り上げられたが、ホモサピエンスの起源と移動に関する研究が今大きな進展を見せており、今年どんな論文が出てくるのか注目の領域だ。しかし一つ一つの論文は断片的で、それまでの考えやデータについての知識がないと、楽しむことは難しい。

そこで、これから予想されるこの分野の進歩を楽しみたいと思っている人たちのために、サピエンスの出アフリカまでの歴史をまとめておくことにした。ただ、これから書こうと思っているのは、あくまでも私の頭の整理で、独断も混じっており、中立でもないし、正確でない点も多々あるはずだ。ただ、そんな間違いは新しい発見でいくらでも変更できる。まず、頭の中に大きなシナリオを描くことが、科学的発見を楽しむコツになる。

人類の進化

約400万年前の化石が残っている最初の人類アウストラロピテクスは、700-900万年前にサルから分離し人類への一歩を踏み出したとはいえ、まだ2足歩行を始めたサルと言っていいと思っている。そして約200万年前アフリカ東部で人類(ホモ)と呼べる種が誕生する。完全に二足歩行、地上生活を送るようになったホモ・ハビリスやホモ・エルガスターに由来するいわゆる直立原人は、ヨーロッパからアジアにかけて広く分布し、例えばジャワ原人や、北京原人、ヨーロッパではハイデルベルグ原人がこれに相当する。

サルやアウストラロピテクスと比べて、直立原人の進化過程で最も目立つのは、噛み付くための犬歯の退化と、男女の体格の差の縮小だ。もちろん加工された石器を使うようになっており、道具を用いて獲物を砕き、奥歯で噛んで食べる習性が犬歯の退化を促したと思われる。この時期の石器はそれ以前の原始的なOldwan石器と区別してAcheulean石器と呼ばれ、アフリカ、ヨーロッパ、アジア全体から発掘される。

おそらく、グループ内で一夫一婦制が生まれるのもこの時期で、これによりメスをめぐる争いがなくなったことが男女の体格差の縮小につながったと思われる。

古代人類と現生人類

最初の人類を直立原人(ホモ・エレクトス)と総称できるのは、アフリカ、ヨーロッパ、アジアに広がる直立原人が文化でも、形態でも共通性を持っているからで、北京原人や、ジャワ原人の年代から見て、180万年前には出アフリカを終えていたと思われる。

この直立原人から生まれたのが我々人類で、現在知られているのがArchaic human(古代人類)と総称されるネアンデルタール人、デニソーワ人(ジャワのフローレンス人も加えることができる)、および私たちの先祖modern human(現生人類)だ。

ヨーロッパの視点からのみ考えられていた時代には、ハイデルベルグ人からネアンデルタール、そして原生人類が生まれたと考えられたが、現在では100万年ほど前(正確な時代算定は後述)、やはりアフリカで古代人類と現生人類が分かれたと考えられるようになっている。

ライプチッヒ・マックスプランク研究所のペーボさんたちの研究のおかげで、ネアンデルタール人、デニソーワ人のゲノムが解読された。この結果、人類の間での遺伝的関係が明らかになり、それぞれの人類の分離と交流に関する研究は急速な進展を見せており、毎週エキサイティングな論文が発表されている。しかし、現在の技術では100万年という時間に隔てられた直立原人のDNAを回収して解析することは難しい。

ゲノム解析された最古の人類

これまでゲノムの一部が解析できた最古の骨は、約43万年前のものだ。この骨は北スペインSima de los Huesosで出土したもので、ハイデルベルグ原人由来である可能性すら指摘されていた。ほとんど検出の限界に近いサンプルの解析にチャレンジしたライプチッヒ・マックスプランク研究所のマイヤーは、ミトコンドリアだけでなく核内のDNAの断片の配列の解読に成功した。そして、この骨が、核DNAではネアンデルタール人に近く、ミトコンドリアDNAはデニソーワ人に近いことを発見する。

ややこしい話だが、ミトコンドリアは母方の卵子から受け継ぐ。これを計算に入れると、この地域のネアンデルタール人はデニソーワ人と母性系統では共通だが、ゲノムの方は既にネアンデルタールに分離していたことになる。

そしてその後のある時点で、ヨーロッパのネアンデルタール人の母性系統は、別の系統にスイッチしたことになる。このスイッチがどのように起こったのか、新しい発掘により解き明かされる日が来ると確信している。

ホモサピエンスの誕生

Meyerにより解析されたゲノムから、ネアンデルタール人とデニソーワ人は38万から47万年前に分離していることがわかった。この分離はおそらくヨーロッパのどこかで起こったのだろう。

一方同じデータから、古代人類と現生人類は55-76万年前に分離したこともわかる。昨年明らかになった、最も古い現生人類の骨がモロッコで出土していることを考えると、この分離は間違いなくアフリカで起こった。すなわち我々の先祖サピエンスは、アフリカで約6-70万年前に誕生した。

次回はアフリカで誕生した我々の先祖のアフリカ時代について、最も新しい論文を参考にしながらまとめる予定だ。