インフルエンザに潜む心筋梗塞の危険性

(ペイレスイメージズ/アフロ)

今年は、A型とB型のインフルエンザが同時に流行しているようだ。通常1週間もすれば治るが、小児ではインフルエンザ脳症、高齢者では肺炎を合併して死に至ることもある。私も高齢者の仲間だが、2週間前インフルエンザ(おそらくB型だと思うが)にかかり、久しぶりに1日寝込んでしまった。熱は大したことはないが、夜咳き込んだ時脳圧が上がって卒中になるのではと不安にかられ、体力が低下したのを実感した。ただ、これは杞憂ではなく、1930年頃から、インフルエンザが心筋梗塞などの心血管障害を誘発する可能性が疑われていたようだ。

この可能性を、疾患の登録データベースから確かめた論文がトロント大学から1月29日発行のThe New England Journal of Medicineに発表されたので紹介しておく(Kwong et al, Acute myocardial infarction after laboratory-confirmed influenza infection(検査で確認されたインフルエンザ感染に続く急性心筋梗塞) The New England Journal of Medicine 378:345, 2018).

この研究では、カナダオンタリオ州の疾患レジストレーションを用いて、2009年5月から2014年5月にかけてインフルエンザウイルス感染の確認された患者さん、及び2008年5月から2015年5月にかけて急性心筋梗塞で入院した患者さんを抜き出し、インフルエンザ感染中に起こった心筋梗塞の発生頻度を、それ以外の時期での心筋梗塞発生頻度と比べている(誰がインフルエンザの検査を受けたかまで完全に登録されているデータベースが整備されているのを見ると、我が国がいかに遅れているかよくわかる)。

対象はウイルスの感染をPCR(遺伝子増幅法)などで確認できた35歳以上のインフルエンザの患者さんに限っており、19045人にのぼるが、この中で調査期間中に急性心筋梗塞を起こして入院した人は487人になる。もちろんほとんどの患者さんはインフルエンザの感染とは全く無関係の時期に発病しているが、インフルエンザウイルスが検出された後1週間以内に発病した患者さんが20人いることがわかった。

この数字からインフルエンザと関連する心筋梗塞を計算すると、ウイルス検出後の1週間はなんと6倍も頻度が上がる。しかし感染が確認された後8日目以降1ヶ月までを見ると頻度は0.6-0.75と10分の1に低下することから、インフルエンザ感染は間違いなく心筋梗塞の危険性を高めるようだ。

詳しく患者さんを調べると、65歳以上では7.5倍、65歳以下では2.8倍で、しかも女性に多い。結論としては、高齢で女性、特に動脈硬化などリスクが高い人は、インフルエンザにかかると心筋梗塞にかかる心配があると言える。さらに驚くのは、A型インフルエンザよりB型の方が2倍頻度が高いことから、まだ特定できていない何か特異的な原因がありそうだ。

しかしなぜこのような現象が起こるのかはこの研究からはわからない。心筋梗塞の原因になる動脈硬化も炎症と考えることができる。とすると急性のウイルス感染によりこの炎症が悪化するのではないか?あるいは炎症で、血管の収縮や、ストレス反応が起こって発症するのではないか?など推察はできても、メカニズムの理解にはまだまだ研究が必要だ。

インフルエンザの感染者を正確に割り出すことは難しいが(現在の流行ではすでに300万人を突破していると推定されている)、例えば2009年の大流行で331人のインフルエンザ脳症が発生した。これは個人的な計算だが、1万人に2-3人といった頻度ではないだろうか。これと比べると、2万人に20人というこの研究が示す心筋梗塞の頻度は高い。もちろん、肺炎の合併と比べると頻度は高くないと思うが、深刻に考えた方が良さそうだ。

ここに述べた計算は推測に過ぎず正確なものではないことを断っておく。