論文紹介:食品に添加されたトレハロースがクロストリジウムの流行の原因だった

スーパバグのコロニー(提供:CDC/ロイター/アフロ)

来週発売のNatureに、ちょっと恐ろしい論文が掲載される。普通に食品に添加されているトレハロースが、難治性の腸炎の原因クロストリジウム・ディフィシル(CD)の流行の原因になっているという研究だ。実験の詳しい内容は私自身のブログを参照してもらうことにして、重要なメッセージだけを紹介しておく。米国テキサスのベーラー大学からの論文で、CDが勃発した臨床現場では極めて重要な情報だと思う(Collins et al, Dietary trehalose enhances virulence of epidemic clostridium difficile(流行性のクロストリディウム・ディフィシル強毒株の毒性は食事の中のトレハロースにより増強される)Nature,2018 in press:doi:10.1038/nature25178)

トレハロース

グルコースが2個結合したトレハロースは、温度や酸に強い糖として19世紀に発見された。化学的特徴が優れており、しかもキノコを含む多くの生物に存在していることから、安全で有用な糖として注目されてきた。最初は1kg精製するのに700ドルもかかっていたのが、林原研究所により大量生産技術が開発され3ドルに低下したこと、そして米国FDAもトレハロースが安全であると認定したことで、2000年前後より多くの食品に添加されるようになっている。

クロストリディウム・ディフィシル(CD)

常在性の嫌気性菌で、健康人の腸内細菌叢に存在しているが、抗生物質に抵抗性を持っており、他の細菌が抗生物質で除去され、細菌叢のバランスが崩れると、増殖して腸炎を起こす。

ただ、通常他の細菌に抑えられているCDが抗生物質の助けなしに増殖することが知られており、これが流行性のCDに当たる。2000年以降、様々な国でこの流行が観察されるようになった。様々な患者さんから分離したCDゲノムの解析からRT027,RT078株が強い毒性を獲得し世界的流行の原因菌であったことも突き止められている。

RT027に関しては抗生物質耐性の原因遺伝子が突き止められているが、RT078株については強毒化の候補遺伝子もわかっていない。さらに、流行は必ずしも抗生物質と関連しておらず、その原因の追究が待たれていた。

論文で示されたこと

すでに述べたように、もともと毒性の強いCDの流行が起こらないのは、腸内で他の細菌との競争に晒されて増殖が抑えられるためだ。逆にCDの流行は、何らかのきっかけでCDの増殖が他の細菌を上回ったことを意味する。この原因がCDで利用できるが、他の細菌では利用できない食品に添加された炭水化物によるのではと着想した著者らは、様々な糖の中からトレハロースが流行性のCDが利用して強い増殖を誘導する原因であることを突き止める。

そして、

1)流行性CDでは、低い濃度のトレハロースで、トレハロースを利用できるように分解する遺伝子treAが誘導される。

2)treAの誘導は両株で共通だが、RT027では分解酵素treAの誘導を抑える分子(リプレッサー)の突然変異により、一方RT078ではトレハロースを細胞内に取り込む分子(トランスポーター)が新たに現れた。

3)世界各地で独立に分離された流行性のCDで同じ変異が見つかる。

4)正常型のCDをトレハロースとともに培養すると、同じような変異体が誘導できる。すなわち、トレハロースの存在を利用できる進化が起こった。

5)トレハロースが存在しないと、変異株でも増殖優位性はないため、発病しない。

などを明らかにしている。

まとめと感想

この結果は、流行性のCDは、人間が人工的にトレハロースを添加した食べ物を食べ始めてから起こった病気であることを示し、自然界にあるからと安全だと思ってしまうと、予想できないしっぺ返しが起こることを示す重要な例になったと思う。確かにキノコなどトレハロースを自然に含む食品は多いが、流行の歴史から考えて、トレハロースの食品添加が始まった時期と、流行が一致することから、やはりトレハロースの添加が原因と言っていいだろう。幸い、CDは他の細菌に対する増殖優位性によって毒性を発揮するので、CD腸炎が疑われた時、トレハロースを含まない食事を与えることで回復できる可能性を示唆している。臨床の現場で明日から実施可能なことで、是非この結果を念頭に置いて対応して欲しいと思う。