現在、社会格差の指標としてもっともポピュラーなのがジニ係数で、所得を基礎に算定されるのが普通だ。厚生労働省により発表されている我が国のジニ係数は増加を続けており、平成26年では0.57になっている。しかし厚労省によると、この値は税率などで補正すると0.37−0.38とほとんど横ばいらしい?これが正しいとすると我が国の税制は格差抑制のためにうまく働いていることになる。いずれにせよ歴史的に見れば個人の所得を把握して時代ごとのジニ係数を算定することは簡単ではない。

所得の代わりに遺跡に残る住居跡のサイズの違いをベースに、狩猟生活から、植物栽培の開始、さらに農業社会へと移行する約1万年近い人類の歴史の各時期のジニ係数を算定し、文明の進化に伴う格差の発生の原因について調べた論文がワシントン州立大学からNatureオンライン版に掲載されたので紹介する(Kohler et al, Greater post Neolithic wealth disparities in Eurasia than in North America and Mesoamerica(新石器時代以降に北米、およびスペイン占領前の中米と比べると富の不平等がユーラシアで進行した)Nature in press, 2017;[doi:10.1038/nature24646 doi:10.1038/nature24646])

この研究では、世界中に点在する古代社会の遺跡で住居について詳しい記載のある論文から、集落の住居の広さを算定し、その差をもとにジニ係数を算定、その社会の特徴を探ろうとしている。住居の広さからジニ係数を算定すること自体は、記録のない時代を知るための優れた方法であることを確認し、データから格差の起源を突き止めようとしている。

おそらく誰もが予想していると思うが、ジニ係数は、狩猟生活、栽培と定住の始まり、農耕社会と経過するにつれて、上昇する。すなわち狩猟共同社会ではほとんど見られなかった格差が、農業の導入とともに拡大していくことが確認された。さらに悲しいことに、政治体制が国家へと進むとともに原則としてジニ係数が増加する。しかし例外もあり、例えばメキシコのテオティワカンでは農業を基本とした大型の国家が形成されているにもかかわらずジニ係数は0.17で止まっている。筆者らは、宗教を中心に置いた集団政治体制が、格差のない社会を政治的に実現しようとしたとするこれまでの仮説が、ジニ係数を用いた今回の結果でも確認されたと結論している。

各地・各時代のジニ係数の分析から得られた結果の中で著者らが最も注目したのが、アジア、中東、ヨーロッパの旧世界と、北米、中米の新世界では、時代によるジニ係数の増加パターンの大きな違いがあることだ。旧世界ではジニ係数が時代とともに上昇し続けているのに、新世界では時間との相関が明確でない。また、新世界のジニ係数値は旧世界と比べて全般的に低い。

この差の原因を追求する中で、著者らは、大型家畜の農業への導入が格差の原因になったのではと着想した。すなわち、旧世界では農業導入後。時間とともに大型家畜が導入が進む一方、新世界では導入時期が地域でまちまちだった。これを確かめるため、各地域の大型家畜導入時期を起点としてジニ係数の変動を調べると、家畜導入前後での両地区でのジニ係数の動きがほぼ同じようになることを示している。

まとめると、人類は共同性を獲得することで強いボスが全てを支配する動物の格差社会を乗り越え、共同狩猟社会から原始農業の始まりまで、格差を排除した社会を守ってきた。しかし、専門性を必要とする大型家畜の導入が格差社会への道を促したという結論だ。しかし、テオティワカンのように、政治により格差拡大が抑えられることも示している。

この研究では、現代の集落についても同じ方法でジニ係数を算出し、スロべキアやスペインではジニ係数が横ばいなのに対し、アメリカや中国でそれぞれ、0.8、0.7sと急速に上昇していることを指摘して、この原因を突き止めれば、格差社会是正のために我々が向かわなければならない問題点も整理できるのではと結んでいる。結論は特に驚くことはないが、「古きを考える」考古学が、様々な領域で新しい実践的な科学へと変換しようとしている息吹を感じる。