「良薬と(思えば)口に苦し」の脳科学:思い込みから副作用が生まれるメカニズム

(写真:アフロ)

現在薬剤の効果を確かめるための最も信頼できる方法が、無作為化2重盲検試験で、この場合対象者は本当の薬か偽薬のどちらかを投与される。これにより、新しい薬を飲んでいるという精神的な要因が結果を左右するのを防いでいる。この思い込みで薬の効果が生まれることはプラセボ効果と呼ばれ、多くの人に馴染みがある言葉だと思うが、ノセボ効果を知っている人は多くないだろう。ノセボはプラセボの逆で、何も入っていない偽薬でも投薬を受けたと思うだけで、副作用が出ることを指す。

実際ノセボ効果の個人差は大きい。例えば薬剤の副作用を強調する情報は巷に溢れており、このような情報の影響は大きい。また、感受性は高いが知的には成熟していない思春期では、ちょっとした思い込みから体の変化が生じる。「人間は精神的生き物だから、プラセボもノセボも当たり前」と深く考えたことがなかったが、この問題を取り上げ、私達の思い込みがいかに体の反応に大きな影響があるか調べた面白い論文が、ドイツハンブルグ大学から10月6日号のScienceに発表されたので是非紹介したい(Interaction between brain and spinal cord mediate value effects in nocebo hyperalgesia(脳と脊髄の相互作用により知覚過敏症の価格依存的ノセボ効果が生まれる),Science 358:105, 2017)。

この研究では、アトピーに対する2種類のクリームの安全性(副作用の有無)を調べる試験を健康な人を対象に行うという設定にしている。使うクリームは全て偽薬で効果も副作用もないクリームを選んでいる。しかし実験の参加者にはアトピーの薬の試験であることを告げておく。そして、クリームの中身は同じだが、パッケージだけを変えて一目で値段が安い、あるいは高いクリームだと思わせるよう仕向けている。

このように思い込みを発生させた後、被験者にコントロール(含まれる成分は同じ)とノセボの両方を腕に塗ってもらって、知覚過敏がないかどうかノセボと比較させるが、最初ノセボの方の温度を上げておいて、ノセボの方が知覚過敏を誘導しているという先入観を植え付ける。

こうしてノセボに対する先入観を植え付けておいて、次に同じノセボを今度はコントロールと同じ温度にして腕に塗り比較させるときに、脳と脊髄の機能的MRIを同時に撮影、皮膚からの痛みを感じる感覚神経の活動と、脳の活動を測定し、脊髄での痛み感覚にクリームの値段に関する思い込みがどのように作用するかを調べている。

こう書くと簡単な話に聞こえるかもしれないが、実は脳と脊髄のMRIを同時に撮影することは簡単でなく、この測定方法を開発したことがこの研究のハイライトだ。

さて、結果だが、ちょっと温度を変えて皮膚の知覚過敏と思い込ませるだけでノセボ効果を誘導することができる。さらに、このノセボ効果は値段が高いクリームという思い込みによってより強まり、感覚過敏も長く続く。このように、私たちはちょっとしたきっかけで、薬に対する思い込みを成立させ、これが副作用の訴えにつながることがはっきりした。さらに驚くことに、値段が高いとおそらく副作用も強いと考えてしまうことも確認された。

ノセボ効果が表れている時に機能的MRI検査を行うと、腕の感覚神経が走る第6頚椎(C6)レベルの脊髄を含め様々な場所が活動しているのを捉えることができるが、値段に対する思い込みで最も差が出るのが、C6脊髄の中央後ろ側、中脳の水道周囲灰白質(PAG)、そして前帯状皮質(ACC)で、C6とPAGはノセボ効果と比例している一方、ACCの活動は反比例するという結果だ。

この結果は、値段が高いという思い込みは、思い込み成立に関わるACCの活動を抑え、その結果抑制が外れたPAGの活動が上昇して、C6感覚を高めるというシナリオを示唆している。

「良薬口に苦し」ならぬ、「良薬と思えば口に苦し」の回路が明らかになったことになる。この回路は、これまでのプラセボ効果研究で明らかにされていた回路で、ノセボに関わっていると聞いても特に驚きはないのだが、実際の中枢神経活動の差として示されると、副作用の評価がいかに困難かよくわかる。