ネアンデルタール人もいろいろ:旧人類・現人類相関図

(写真:ロイター/アフロ)

解読した古代人ゲノムから有史以前の歴史を解明する研究が着々と進んでいる。2-10万年前に地球で暮らしていた我々の先祖である現人類(modern human, present day human)と旧人類(ネアンデルタール人や、デニソーワ人)で、少なくとも一部のゲノムが解読されたのは何十体にも及んでいると思う。しかしこの中で精度の高いゲノム解読となると、数は10分の1に減る。

同じゲノムを何回も繰り返して、しかも読み落としがないように解読できると、統計学的に読み間違いが減り精度が上がるだけでなく、両親から由来した染色体(対立染色体)のDNA配列を区別して解読できるため、両親が遺伝的にどれだけ離れているか計算できる。もし、両親から由来したそれぞれの染色体に一定以上の長さの同一領域が認められると、近親相姦が日常化していたことの証拠になる。加えてゲノムの持ち主が属していた集団のサイズも推定できる。従って、できるだけ保存状態のいい旧人類のDNAを探して高い精度でゲノム解読を行うことは、ゲノムが解読された個体数を増やす以上に重要で、今も地道に研究が進められている。

今日紹介したい論文は、古代人ゲノム解読の創始者と言ってもいいドイツ・マックスプランク進化人類学研究所の前所長、ペーボさんの研究室からの研究で、クロアチアのVindijaから出土した5万年前のネアンデルタール人のゲノムを30回繰り返して読むのに相当する精度(30 coverage)で解読している。論文のタイトルはズバリ「A high coverage Neandertal genome from Vindija cave in Croatia(クロアチアVindija洞窟で出土したネアンデルタール人ゲノムの高精度解読)」だ(Cite as: K. Pruefer et al., Science 10.1126/science.aao1887 (2017))。

これまで生きている人間のゲノム解読に匹敵する精度で解読されたネアンデルタール人ゲノムは、アルタイ出土(12万年前)及び、デニソーワ人が発見された洞窟から出土(7万年前)した2体に限られていた。この研究はこれにVindijaで発見された(5万年前)を加えた。

先に述べたように、今回達成された30 coverageの精度は、両親由来の対立染色体を分別することを可能にする。この結果、対立する染色体の類似性から、集団のサイズ、近親相姦の有無などを正確に決定することができる。これまでアルタイ出土の10万年以上前のゲノムには、対立染色体間で極めて長い重複が見つかり、近親相姦がネアンデルタール人の多様性を奪ったのではと騒がれていた。ところがデニソーワ洞窟、Vindija洞窟由来のより新しいネアンデルタール人のゲノム解析は、

1)対立染色体同士の類似性は、現人類と比べると高い。

2)しかしアルタイで見られたような長い領域の重複は発見されない。

ことを明らかにした。

この結果から、後期のネアンデルタール人で近親相姦の痕跡が減ることから、おそらく近親相姦が常に繰り返されていたという可能性は、10万年以上前、あるいはアルタイなど限られた領域以外では、低いことがわかった。

とはいえ現人類と比べると、対立遺伝子の類似性は高く、このことからゲノムの持ち主が属していた集団サイズが大体3000人であると推定している。

次に、ヨーロッパに分布したネアンデルタール人誕生後の歴史も推定できる。結論を述べると、約40万年前に誕生したグループが、この3箇所に分布し、その過程で現人類の民族に相当する多様なグループが生まれたことがわかる。

以上の結果を合わせると、「ネアンデルタール人」と十羽一絡げに一般化することはできる限り慎むべきで、「ネアンデルタール人もいろいろ」と考えることの重要性を示している。

最後に、我々の最も興味を持つ、旧人類・現人類の交雑による相関関係だが、今回解読された新しい時代のVindijaゲノムは最も現人類と似ていることがあきらかになった。すなわち交雑によるゲノム交流が進んでいる。

この研究では、ネアンデルタール人の遺伝子流入がないアフリカ人ゲノムとの比較から、現人類から旧人類へのゲノム流入は、Vindijaとアルタイが分離する以前に限られている一方、旧人類から現人類への流入は決して珍しいことではなく普通に起こっていたのではと結論している。その結果、我々東アジア人ゲノムの2.3-2.6%はネアンデルタール由来になっている。

最後に、ではどんなネアンデルタール遺伝子が我々現人類ゲノムに残っているのかだが、これまでの自己免疫抑制、うつ病、光皮膚反応などに加えて、高コレステロール血症、内臓脂肪蓄積、ビタミンD欠乏、摂食障害、リュウマチ性関節炎、統合失調症、向精神薬に対する反応異常として発見されていたSNPが新たにネアンデルタール由来であることが明らかになった。

いちいち解説は避けるが、高コレステロール症はシロクマにも見られる寒さ対策だし、内臓脂肪蓄積も重要な適応と言っていい。ただ、多くの人が不審に思うのは、なぜうつ病や、統合失調症に関わる多型をわざわざ後生大事に維持しているかだろう。もちろん答えはないが、彼らの生きた厳しい時代に、全員がマニアックに一つの方向に走り出したりすると先には滅亡だけが待っている。そんな時、「あまりやる気が起こらない」と突っぱねられる人間の存在は重要だと思う。

これは今の世界にも通用する。なんとなく皆が躁的気分に駆られ、一つの方向に進もうとしている時は、必ず違う方向を見ている人の存在が重要だ。今後解読される精度の高い古代人ゲノムから、私たち自身についてさらに多くのことを学べることは間違いない。歴史は未来のためにある。