酒を飲むほどボケずに長生き?:こんな論文を読んでみたかった。

(写真:アフロ)

体に悪いからと酒を控えようと思ったことはない。若いときのように浴びるほど飲むことはまずないが、酒のない夕食は考えられない。

だからと言って、「酒を飲んだほうがいい」などと若い人に向かって勧める気もないし、頭のどこかで酒は控えたほうがいいのではと囁く声も聞こえる。

この声を振り払おうと、誰かが「酒は百薬の長」などと真剣に言ってくれるのを待っている。医学者というのは因果な商売で、人が言うだけでは安心できない。酒好きを正当化する論文をなんとか探しだして、「酒を飲むな」という内なる声を抑えようとしている。

たしかに適度なアルコールが心臓疾患などを予防することを示す論文の数は多い。しかし、「適度」というのが曲者で、よく読むと大概私の日常摂取量より低い。

ところが、今週カリフォルニア大学サンディエゴ校から、酒を飲んだほうがボケずに長生きできるという論文が発表された(Richard et al, Alcohol intake and cognitively healthy longevity in community dwelling adults: The Rancho Bernardo Study(地域社会で暮らす人にとって、アルコール摂取は認知機能を維持した長生きをもたらす:The Rancho Bernard研究), The Journal of Alzheimer's Disease, 39:803, 2017)。まさに酒好きにとっては極めつきの研究だ。酒好きでやめられない皆さんのために紹介する。

だからと言って、これまで飲んだことのない人が、この論文を理由に飲まないとダメなど思わないでほしい。この論文は酒飲みの精神安定剤ぐらいに考えてほしい。

さて研究はサンディエゴの近くのRancho Bernardoに住む成人を対象に、ライフスタイルと病気の関係を調べる目的で1972年以来進めれらているコホート研究で、定期的に認知機能を含む健康診断が続けられている。

この集団の中で85歳になって認知機能を調べることができた1344名についてアルコール摂取との相関を調べている。アルコール摂取量についてはビール、ワイン、スピリッツなど詳しく分類して計算し、moderate, heavy, excessiveに分類している。moderate drinkerとは65歳以上で1日1杯、65歳以下で1日2杯程度を飲むグループで全体の48%、heavy drinkerとは1日65歳以上で1-3杯、65歳以下で2-4杯程度飲むグループで全体の36%、そしてそれ以上飲むグループがExcessive drinkerだ。

ここからわかるのは、この地域のほとんどの人がアルコールと共に生きていることで、全く飲まない人は28人だけしかいない。

さて、気になる85歳までボケずに生きる可能性をオッズ比で表すと、様々な要因の補正操作にかかわらず、アルコールの摂取量が多い人ほどオッズ比が高い、すなわちボケずに85歳を迎える確率が高い。Excessiveに飲む人ですら喫煙を補正するとオッズ非が2を越すという結果が示されている。

量とは別に、どの程度頻回に飲んでいるかを調べても、例えば全く飲まない人を対照にして他の要因で補正しないデータを示すと、1ヶ月に2回程度の人は1.92、週一回程度の人が1.79、毎日飲む人が2.3と飲んだほうがオッズ比が高くなる。他にも様々な補正をしているが、結果は変わらない。

私たち酒好きはまさにこんな論文が出るのを待っていた。

しかし繰り返すが、この論文を示して、若者に酒を飲むべきだなどと主張する気にはならない。例えばこの研究の対象は環境のいい郊外で暮らしている人たちで、都会の集合住宅で暮らす私に当てはまるかどうかわからない。もっと多くの地域、特に我が国で同じような研究を行うことは重要だ。

結局この論文は酒飲みの精神安定剤で、確かに頭の中で「飲み過ぎるな」と囁く声を黙らせる鎮静効果はあるが、逆の結果でも結局晩酌は欠かせない。