私たち現代人と共通の母系につながるネアンデルタール人がいた?

(写真:ロイター/アフロ)

ドイツ・ライプチッヒのマックスプランク研究所・ペーボ博士たちによる古代人ゲノム研究解読により、ネアンデルタール人やデニソーワ人など古代人と私たちホモサピエンスは交雑が可能で、しっかり子供ができていたことがわかっている。その結果として、アジア、ヨーロッパ、アメリカ、オセアニアの現代人にはネアンデルタール人やデニソーワ人の遺伝子が流入し今も維持され続けている。このことは、ネアンデルタール人の父と現代人類の母の間にできた子供も、現代人類一員として受け入れられていたことを意味する。しかし、ミトコンドリアゲノムで比べると現代人類と古代人の交雑の痕跡はない。ミトコンドリアは母親の卵子を通してのみ子孫に伝わっていくので、母親がネアンデルタール人の子供が現代人類に育てられないと、ネアンデルタール人のミトコンドリア遺伝子は残らない。したがって、この結果はネアンデルタール人の母親が現代人の仲間として受け入れられなかったことを物語る。

問題は、核内ゲノムで比べた現代人類、ネアンデルタール人、デニソーワ人の系統進化と、ミトコンドリアゲノムで比べた進化の経過が一致しないことで、詳しい説明は省くが、この食い違いは、早い段階で互いにミトコンドリアゲノムを含む交雑がおこっていたと考えないと説明できない。ところがこれまでの研究のほとんどは古代人からホモサピエンスへのゲノムの流入を示していても、これまで解読されたネアンデルタール人のゲノムには、ホモサピエンスからネアンデルタール人へのゲノム流入の痕跡は見つかっていなかった。

そこに昨年ライプチッヒ・マックスプランク研究所から、シベリアアルタイ地方のネアンデルタール人には、ホモサピエンスのゲノム流入の跡が残っていることが報告され、まだ現代人がアフリカから出ていない段階での交雑があった可能性が高まっていた(Kuhlwilm et al, Nature,530:429,2016)

今日紹介する同じライプチッヒ・マックスプランク研究所からの論文は1930年代にドイツ南部で発掘されたネアンデルタール人のミトコンドリアDNAが他のヨーロッパから出土するネアンデルタール人とは異なり、ホモサピエンスに近いことを示す研究でNature Communicationオンライン版に掲載された(Posth et al, Deeply divergent archaic mitochondrial genome provides lower time boundary for African gene flow into Neanderthals(古代人のミトコンドリアゲノムの大きな多様性はアフリカのホモサピエンスからネアンデルタール人への遺伝子流入が比較的新しく起こったことを示す),Nature Communications ,DOI: 10.1038/ncomms16046」だ。

論文では南ドイツから戦前に発掘され保存されていた大腿骨からDNAを取り出し、ミトコンドリアのゲノムの解読に成功している。古代DNA解読が進む現在では、当たり前のように聞こえる研究だが、実は博物館などに保存されている大腿骨のゲノム解析は、この骨を取り扱った人たちのDNAが混りこんで決して簡単でない。そのため、DNAが外界から守られている歯や耳骨が残っておれば解析に用いられ、大腿骨は敬遠される。実際この研究でも、核内ゲノムの解読は難しいようで、この情報が得られるにしてもまだまだ時間がかかると思われる。

この逆境を乗り越え、ミトコンドリアについてはなんとか解読し、これまで解読されたネアンデルタール、デニソーワなどの古代人や私たちホモサピエンスのミトコンドリアと比べたのがこの論文だ。

論文のほとんどは、このゲノム解析が信頼できるか、他の古代人との関係を調べるため、どのインフオーマティックスを使ったかなど詳しく述べているが、すべて省いてズバリ著者らの主張を以下のようにまとめてみた。

「新しく解読した南ドイツのネアンデルタール人のミトコンドリアゲノムは、これまで発見された多くのネアンデルタール人ゲノムとは大きくかけ離れており、他のネアンデルタール人と20-30万年前に分離したと考えられる。面白いことに、現代人の核内ゲノムの導入の痕跡があるアルタイのネアンデルタールに近縁で、しかも他のネアンデルタールグループと比べても現代人のミトコンドリアに近い。おそらく20-40万年以前にアフリカで現代人の先祖のミトコンドリアゲノムが極めて限られたネアンデルタール人グループに導入され、他とは異なる私たち現代人と母系を共有する新しいネアンデルタール人系統を形成した。」

もちろん今後他のサンプルで、アルタイから南ドイツまでに同じネアンデルタール系統がさらに発見されないと、この結果に対する反論は絶えないだろう。とはいえ、この結果はこれまで謎だったミトコンドリアDNAから見た時の古代人の系統樹と核DNAから見た系統樹の矛盾を説明するとともに、ネアンデルタール人と一緒になったホモサピエンスの女性が、ネアンデルタール人の中で受け入れられ、子孫を残したことを示す重要な結果だと思う。さらにこのロマンが証明される証拠が発見されることを首を長くして待っている。