ちょっと気になる論文:プロトンポンプ阻害剤のリスク

(ペイレスイメージズ/アフロ)

胃の痛み、胸やけなど、誰もが経験する嫌な症状だが、診察を受けて背景に消化器潰瘍や、逆流性食道炎があることが確認されると、胃酸の分泌を抑えるため、H2ブロッカーと呼ばれるヒスタミン受容体阻害剤か(H2B)、プロトンポンプ阻害剤(PPI)が処方される。ただ、症状を抑える力はPPIが強く、効き目についての患者さんの評判もいいので、PPIが選ばれる率が急速に伸びている。

実際昨年厚労省が発表した処方数では、上部消化管症状に対する全処方のうちPPIが24%、H2Bが9%を占めており、人気を裏付けている。

ところが最近、PPIが間質性腎炎、認知症など様々な疾患のリスクになることを警告する論文をちらほらみかけるようになった。

この状況を確認するため、比較的正確な記録が残っているアメリカ退役軍人局からデータを抽出して、新しくPPIを使用した患者さんを平均5年追跡、死亡率を比べたのが今日紹介するセントルイス疫学センターからの論文でThe BMJ Openにオンライン掲載されている(Xie et al, Risk of death among users of proton pump inhibitors: a longitudinal observation cohort study of United States veterans(プロトンポンプ阻害剤のリスク:米国退役軍人の縦断的観察コホート研究), The BMJ Open)

調査では2006~2008年にPPIやH2Bの処方を初めて受けた患者さん約35万人を平均5.7年追跡し、原因を問わず死亡率を調べた研究だ。結果は、PPIとH2Bを処方された人で比べると、生存曲線でPPIを処方された人の死亡率は高い。これを背景などを計算し直してPPIとH2Bのオッズ比を算定すると、1.16-1.25と優位にPPI使用者の方が高い。さらに、PPI の処方期間ごとにハザード比を調べると、処方期間と正比例してリスクが高まることがわかった。これらの結果から著者らはPPI服用により、原因は不明だが全般的な死亡リスクが高まると結論している。

もちろんこの研究には問題も多い。対象を統計学的に選んではおらず、一般的観察研究である点、またオッズ比が1.2という数字は、リスクとしては大きくない。しかし、古いデータだがタバコを10本以上吸う人の全体の死亡率で算定された1.8というハザード比(Arch Intern Med, 159, 733, 1999)を基準に見た時、1年以上PPIを服用した場合のハザード比が1.5というこの論文の結果は、PPIにもタバコ程度のリスクはあると考えたほうがよさそうだ。

しかしこの結果は医師の処方を受けた場合の話で、米国ではPPIは自由に薬局で買うことができる。もし胃が痛いからと自分で勝手にPPIを購入して長期に飲み続ける人がいると問題だ。

幸い我が国ではPPIは医師の処方がないと買うことはできない。しかしウェッブを見ると、PPIは安全な薬なのでH2Bのように市販薬として認めて欲しいという意見がgoogle検索の最初のページに出てくるのを見ると、リスクについて警告したこの論文を紹介しないわけにはいかなかった。専門家の友人に聞くと、作用から考えて様々な副作用が起こってもおかしくないようだ。

今後、PPIのリスクの生物学的メカニズムの研究が進み、また今回の結果の追試が行われるまでは、処方箋なしで販売するような規制緩和はちょっと待ったほうがいいように思う。