Autism Speaks 特別レポート(自閉症の健康)紹介 I

Autism Speaks主催の自閉症支援の会で話すポールサイモン(写真:ロイター/アフロ)

Autism Speaks

Autism Speaksは、お孫さんが自閉症と診断された元General Electricsの副社長Bob Wrightと奥さんが設立したNPOで、自閉症の研究や医療の支援を行うとともに、自閉症の人たちや、医師・医療従事者などへの新しい情報の提供を行っている。

先日Autism Speaksは「Autism and health(自閉症と健康)」と題された特別レポートを出版した。このレポートはAutism Speaksのウェッブサイトから自由にダウンロードできる。ただ、英語で書かれているので、連休の時間を利用して、このレポートの概要を3回に分けて日本語で紹介することにした。本来ならAutism Speaksの許可を得て紹介するのが筋と思ったが、日本の人にも正確な情報が届くなら、おそらく問題にはなるまいと、私の一存で紹介している。

レポートの内容

レポートの前書きを読んで驚いたが、自閉症の方々の平均寿命は米国では36歳と、正常の半分にも満たない。すなわち、自閉症が様々な死に至る全身疾患と隣り合わせであることを意味している。Autism Speaksは問題を深刻に受け止め、自閉症の患者さんがかかりやすい様々な病気についてわかりやすく解説することで病気を予防することを目的に、このレポートを公開している。

目次は、

1) 自閉症とてんかん

2) 自閉症と消化器の異常

3) 自閉症と不眠

4) 自閉症と食事

5) 自閉症と精神衛生

6) 自閉症と突然死

にわかれている。

繰り返すが、自閉症を全身疾患として捉え直し、少しでも健康な生活を送ってもらうことを目的とするこのレポート重要性は計り知れない。今日から3日間、3回に分けて概要を紹介する。

自閉症とてんかん

てんかんの発症率は1-2%だが、自閉症の方ではなんと発症率が20-33%で10倍頻度が高い。

てんかんが発症するピークは、就学前と思春期に見られる。また、自閉症の約1/3を占める知的障害(IQ70以下)を併発するケースで発症率が高くなる。  

21編の論文をまとめた最近のメタアナリシス研究によると、てんかんが自閉症の死因の7-30%を占めることが示されており、自閉症の人たちの健康の脅威となっている。

症状としては大発作ではなく、1)何か一点ををじっと見つめる発作(欠伸発作)、2)筋肉硬直、3)四肢の不随意発作(ミオクローヌス)などの頻度が高い。

ただ、てんかんは多様な病気が集まった症候群で、これ以外にも様々な発作の現れ方がある。従って、専門家に相談することが最も大事だ。

本人や家族にとっては、てんかんが自閉症と併発する可能性が高いことをしっかり認識しておくのが大事になる。

てんかんの治療については専門家に任せることになるが、症状を抑える抗てんかん剤は約2/3の患者さんに効果がある。薬剤が効かない場合は、迷走神経刺激、あるいはてんかん発作の引き金を脳領域を外科的に除去する治療が行われる場合もある。

最近自閉症とてんかんが併発する様々な遺伝的疾患が明らかにされてきた。それぞれは、特定の遺伝子の変異に起因する特異的な病気だが、遺伝子から症状へのメカニズムがわかると、症状の背景にある共通のメカニズムが明らかになり、一般の患者さんに利用できる治療法の開発が期待できる。

自閉症と消化器異常

2014年、自閉症児は正常児と比べて8倍、慢性の消化器症状を呈することが報告された。腹痛、腹部のガス、下痢、便秘、排便痛などが症状で、一般的に自閉症の症状が重いほど、腹部症状も重い。意思疎通が難しい子供では症状が重くなる可能性があり、特に注意が必要。

消化器症状と自閉症の行動異常に相関があるという 自閉症児のお母さんの観察にヒントを得て研究が行われ、細菌の毒素が消化管と脳をつなぐ迷走神経を刺激して、脳に影響を及ぼすことが明らかになった。このように、腸の細菌叢の変化は自閉症児の行動異常を悪化させることがあることを知るのは重要だ。 

今年に入って、自閉症児の腸内細菌叢を調べた研究が発表され、1)毒素を持つクロストリジウムのような細菌の比率が高いこと、2)このような細菌の増殖と腸内での炎症反応がセロトニンなどの神経伝達物質のバランスを変化させることが示された。この結果を受けて、正常児の細菌叢を移植する臨床治験が始まっている。

これらの例からわかるように、自閉症のケアは常に消化器系異常の可能性を念頭に置いて進める必要がある。このレポートでは、自閉症でみられる便秘と下痢について解説している。

慢性の便秘:一過性の便秘と異なり、持続的で腹痛を伴い、場合により直腸裂傷、痔、脱肛などに発展する。意思疎通に問題のある子供では発見が遅れ、重大な結果につながることがある。もし子供の様子がおかしいと思った場合(背中をそらせて弓なりの体位をとる、お腹を押さえる、歯をくいしばる)は、速やかに医師に相談する必要がある。

また便秘は腸内細菌叢を変化させ、様々な行動異常を悪化させることもある。

慢性便秘の原因としては、1)無グルテン食や偏食により食物繊維がとれない、2)リスペリドン(リスパダール)などの向精神薬の副作用、3)行動異常に伴うトイレ習慣の乱れ、が主なものだが、腸管の奇形や蠕動運動異常など器質的変化も常に考慮することが必要。

無グルテン食: 無グルテン食が自閉症の症状を改善するというレポートが出されているが、これを確かめるため統計学的にしっかりと計画された治験が行われ、グルテン摂取と自閉症はほとんど相関がないことが明らかになっている。特殊なケースを除くと、無グルテン食など制限食により食物繊維不足になる方が心配

治療は、薬剤治療と行動治療を並行して行うが、家庭としてはできるだけ食物繊維をとらせるよう心がける。

慢性下痢:下痢が続く場合は炎症性長疾患を筆頭に様々な疾患を考えることが必要。自閉症の場合に注意が必要なのは、便秘が原因で下痢がおこることがある点だ。治療のためには原因を特定することが重要で、もちろん医師の指示に従う。

胃食道逆流症も自閉症児にはよく見られるので注意が必要。喉に引っかかった感じや胸焼けを訴える場合はこの病気が隠れていることがある。結果、食が細ったり、就寝前の食事を避けるようになる。また意思疎通の難しい子供では、消化器の変化が自損行動や反抗的な態度といった精神症状として現れることもある。

治療は制酸剤、ヒスタミン阻害剤、プロトンポンプ阻害剤で治すことができる。

ヨーグルトなどのプロバイオの効果は、まだ動物実験段階で、統計学的に信頼に足る治験は行われていない。宣伝に惑わされないことが重要。

明日は睡眠障害、食事についての内容を紹介する。