眠りと夢

外敵に襲われる危険があるのに、眠りのような危なっかしい行動がなぜ進化したのか不思議だ。最近の研究を見ると、覚醒時脳を使い続けると、脳の働きを抑制する電解質などの老廃物が溜まるため、これを脳から排出することが、外敵に襲われる危険より優先するようだ。

眠りが必要なもう一つの理由は、新しく仕入れた記憶の中から重要なものを選び出し、長期間続く記憶として固定することだ。事実、眠りを経て神経同士のシナプス結合が大きく変化することが続々明らかになっている。この記憶の固定に、夢を見ることが貢献していることもわかってきている。

夢とREM睡眠

夢が必要だとして、では眠っているとき、何が私たちを夢に導くのだろう?この謎に迫るためには、実験対象が夢を見ているかどうか正確に知る必要があるが、これが難しい。脳の活動が把握できても、本人が眠ったままで、「夢を見ているのか、見ていないのか?」聞くわけにはいかない。結局、脳波をモニターしながら、特定の活動が見られたときに対象者を起こして、夢を見ていたかどうか聞くことになる。

この研究から、覚醒時に近い脳波と目をキョロキョロさせる動眼神経活動を特徴とするREM睡眠時に夢を見ているという考えが定説になっていた。

新しい夢研究

ところが先週、ウィスコンシン大学のグループが、夢を見ているときの脳活動について、従来のREM睡眠説とは全く異なる可能性を示す論文をNature Neuroscienceに発表した(Siclari et al, The neural correlates of dreaming(夢を見ることに関連する神経活動), Nature Neuroscience, 2017)。この論文は私の夢についての理解を格段に深めてくれたので紹介することにする。

これまでの研究と同様、この研究もで被験者に高密度の脳波計を着用して寝てもらい、睡眠中急に覚醒させて夢を見ていたかどうか、またどのような夢か覚えているかを聞くと同時に、覚醒前の各部位の脳波を詳しく調べ、夢を見ること、及び見ていた夢の内容と相関する脳活動を明らかにしようとしている。

まずREM睡眠と夢との関係だが、通説とは異なりほとんど相関はないということになった。REM睡眠中の方が夢を見ている確率がちょっと高い程度だ。

夢を誘導する脳領域

この研究のハイライトは、REM睡眠,NREM睡眠を問わず、夢と相関する脳領域、すなわち夢の中枢とその活動が特定できたことだ。

場所は頭頂後頭葉皮質と呼ばれる、脳上部の後ろ側の皮質野で、夢を見ていないとき、この領域は1-4Hzのゆっくりした脳波を示す。 一方夢を見ているときは、同じ場所に20-50Hzの周波数の高い脳波が見られる。この脳波の違いを利用して脳波だけから夢を見ていたかどうか予測してみると、ほぼ8割の確率で予測することができる。かなりの確率だ。すなわち、夢を見る中枢があって、それが激しく活動することが夢を誘導するという結論だ。面白いのは、この領域を覚醒時に刺激すると、寝ていなくとも自分が異世界にいて、現実から遊離している気分になることだ。

夢は間違いなく「見ている」

最後に、夢を覚えていたとき、語った内容とそのとき活動していた脳領域の相関を調べると、覚醒時の実際の体験で活動する同じ場所が興奮している。要するに、脳の中からイメージを集めて夢として「見ている」ことがわかる。将来は、夢中枢の活動と、そのとき同時に活動している場所の情報から、どんな夢を見ているかわかるようになる気がする。

私は素人だが、夢中枢がわかり、正確に夢を見ているかどうかが予測できるようになると、夢の研究分野は大きく進展するのではと期待している。次は何を見ていたかを予測する研究が発表されるのも時間の問題だろう。