動物保護とハンティング

野生動物保護を訴えるウイリアム王子夫妻(写真:ロイター/アフロ)

トランプが自信に満ちた顔で「America First」と語る背景には、政治にとって未来への計画や準備は必要ないという思想とそれを受け入れるポピュリズムがある。

一方、基礎科学についてみれば、未来を語らない限り、一般の人の共感は得られない。

すなわち両者は本来相反する思想の上に立っている。トランプだけでなく、我が国でもポピュリズムを掲げる政治家の多くが、エビデンスに基づく議論を嫌い、科学を軽視、あるいは敵視するのも、未来に向いている科学思想が、彼らの刹那主義・エビデンス嫌いを否定していると直感しているからに他ならない。

このようなポピュリズムの動きに対して、未来にコミットするアメリカ科学振興協会の機関紙であるScienceは数年前から、貧困問題、温暖化、環境問題など、21世紀の課題は科学的エビデンスに基づき解決を図るべきであると、科学の未来志向を前面に打ち出している。そして、科学軽視のポピュリズムと戦っていくだろう。

そんなScience編集者の意気込みが伝わるオランダ・ナイメーヘンにあるRadboud大学からの論文が4月14日号のScienceに掲載された(Benitez-Lopez et al, The impact of hunting on tropical mammal and bird populations, Science, 356, 180, 2017)。

アフリカだけでなく世界中で現在も野生動物の密猟が横行し、保護区でさえも動物が減り続けていることが問題になっている。この問題の最大の要因がハンティングであることは想像がつくが、その影響を、世界規模で調べることは実際には簡単ではない。

この研究では、これまでに様々な地域で行われた動物や鳥の生息数調査に関する176論文を集め、各論文で調査が行われた97種類の鳥類、254種類の哺乳動物の生息数変化についてのデータを、調査が行われた地域でハンティングが許可されているかどうかを分類しなおして、ハンティングの影響を算定している。

このように、すでにあるデータを、動物保護区と非保護区で比べ直すことで、ハンティングがどの程度動物絶滅に手を貸しているかがわかると着想したことがこの研究の全てだ。

もちろん理屈を言い出すと、保護区でも密猟の有無など、本当は様々な要因が重なるはずだ。しかし何事も全体像をまず把握しないことには前には進まない。著者らの割り切りは納得出来る。

結論はこれまで想像されていた通りで、ハンティングが野生動物を絶滅へと追いやる最も大きな要因として特定される。

保護区と非保護区を比較すると、ハンティングが許可された地域では鳥類も哺乳類も減少率が高い。例えば鳥類の減少率は保護区と比べ平均で60%高い。哺乳動物になるともっと悲惨で、減少率の違いは90%を上回る。

また減少率は動物の生息地域が、都市からどの程度離れているか(すなわち猟場に到達するまでの時間)と相関し、哺乳動物では距離や到達にかかる時間とほぼ完全に反比例して減少率は増加し続ける。一方、鳥類では一定の距離に達すると、減少率は変わらなくなる。おそらく、鳥類のハンティングは商業性が高くないため、近場で済ませる傾向が高いのだろう。

ハンティングの影響を最も受けるのが大型哺乳動物で、特に商業的ハンティングが行なわれている地域では動物の減少が加速している。この結果、大型動物の隙間を埋めるように、小型動物が増加する。そしてなによりも、同じ傾向がアフリカ、アジア、南アメリカ全ての熱帯地域で認められる。

レヴィ・ストロースのTriestes Tropiquesを「悲しき熱帯」と訳していいかどうかわからないが、この論文を読んでいると全く違う文脈でこの言葉が思い出される。

結局論文の結論は、ほとんどの人がすでに感じていることで、それを確かめただけだと言える。

しかし、エビデンスを嫌い、世界の未来を語るのを拒否する政治家に対し、地道にエビデンスを積み重ねることしか科学に残された道はない。ただ、科学の側もエビデンスが自由な議論のための資料にすぎないことを肝に銘じておく必要がある。エビデンスを受け入れないのは間違っていると尊大に構えたとたん、本当の未来を見失うだけでなく、反科学を勢いづかせる。

17世紀、「悲しき西欧」にあって何が真理かを語った哲学者の一人がスピノザだ。彼の言葉、「一人一人の自由な判断を先入見で覆いつくしたり、何らかの仕方で制限したりするなら、誰もが有している自由と真っ向から矛盾することになる」(光文社文庫:スピノザ。吉田量彦訳、「神学・政治論」)は、科学者自身にも向けられている。17世紀悲しき西欧では、スピノザのように未来に向いた人は少数派だった。しかし現在は、はるかに多くの人が自分のいない未来を考えるようになっていると思う。これが力になれば、世界は未来志向に変わると確信している。