ビタミンCによるガン治療

(ペイレスイメージズ/アフロ)

ビタミンCはその強い還元能力で体の活性酸素を抑えて、老化を防止し、美容やがんの発生予防に役にたつと思っている人は多い。いかがわしいトクホが横行する中で、ビタミンC飲料は間違いなく様々な効果が確かめられた飲料と言っていいだろう。

それでも、効果を確かめるためには細胞を用いた基礎研究と、長期に及ぶ臨床研究が必要だ。例えば、ビタミンCが風邪に効果があると思っている人は多いはずだが、その効果については否定・肯定両方の意見が存在し、一般の人に聞かれた時はっきりと答えることは難しかった。

幸い、Nutrientという雑誌に最近発表されたフィンランドのHemilaという研究者の総説によると、1日6-8gという大量のビタミンCの効果を調べた論文のほとんどは、症状が見られる期間を短縮できることを示しているようだ(Hemila,Nutrients, 9:339, 2017)。これからは比較的安心して「大量のビタミンCは風邪に効きますよ」と言って良いだろう。

このビタミンCを細胞保護剤ではなく、抗がん剤として使う可能性についても、私の学生時代から有名なライナス・ポーリングらにより提唱されていたが、メカニズムが明らかでなく、医療現場では賛否両論が並存し、結局ほとんど浸透しなかった。

ところが最近になって、ビタミンCの大量点滴療法がガン細胞の抑制に効果を示す臨床研究が続々報告されはじめた。しかし、安心してこの治療を利用するためには、ビタミンCがガン特異的障害作用を発揮するメカニズムの解明が必要だった。

臨床先行でビタミンCの抗がん作用が再評価が進んだおかげで、ようやくトップジャーナルにもそののメカニズムについての研究が発表されはじめた。

中でもインパクトが高かったのは、変異型RASをドライバーとするマウス大腸癌では、酸化型のビタミンCが選択的にがん細胞に取り込まれ、酸化ストレスを誘導してガンを殺すというコーネル大学のグループがScienceに発表した論文だ(Yun et al,Science, 350:1391, 2015)。ただ、この研究がマウスモデルだけで行われていたこと、そして効果がRasにより解糖系が高まっているガンに限られていたため、人間のガンにも当てはまるか、研究が待たれていた。

この期待に応えて、アイオワ大学のグループから、人間のガン細胞を用いたモデル実験と、人間への大量ビタミンC投与する小規模治験研究のデータを組み合わせた論文が4月10日発行予定のCancer Cellに発表された(Schoenfeld et al, O2・- and H2O2-mediated disruption of fe metabolism causes the differential susceptibility of NSCLC and GBM cells to pharmacological ascorbate(スーパーオキシドアニオンラジカルや過酸化水素を介する鉄代謝の崩壊がビタミンCに対する非小細胞性肺がんとやグリオブラストーマ細胞の感受性を特異的にあげる),Cancer Cell, 2017)。

この研究ではまず、非小細胞性肺がん細胞(NSCLC)やガンの中でも最も悪性のグリオブラストーマ(GBM)細胞をビタミンCと培養すると、正常細胞では影響のない濃度でガン細胞が選択的に障害されること、またマウスに人ガンを移植してシスプラチンと放射線で治療するモデル実験系で、ビタミンCの静脈内注射を併用するとマウスの生存に高い効果があるという結果を確認している。その上で、効果が見られたがん細胞株を用いて、ビタミンCが示すガン特異的障害効果について生化学的に解析し、コーネル大学のグループとは異なるメカニズムを突き止めている。

詳細は省くが結果を要約すると以下のようにまとめられる。

ガン細胞ではミトコンドリアの酸化的代謝が上昇し、スーパーオキシドアニオンラジカル濃度が高まる。このラジカルにより鉄代謝が阻害される結果、蛋白複合体から離れたフリーの不安定な鉄分子のレベルが上昇する。このフリー鉄がビタミンCに働いて酸化を促すことで、さらにフリーの鉄のレベルを上昇させるサイクルが動き始める。こうして上昇を続けるフリー鉄と過酸化水素が反応すると、ハイドロオキシラジカルの産生が上昇し、細胞が障害されることになる。

この効果は、ガンでもともと活性酸素やフリー鉄のレベルが上がっているために得られる効果で、なぜがん細胞だけでビタミンCが活性酸素のレベルをあげる作用があるのかをうまく説明している。一方正常細胞ではフリーな鉄のレベルが低いため、ビタミンCの寄与は低く、上昇した活性酸素を十分処理することができるため、細胞障害はおこらない。

実験は十分納得出来るもので、Scienceに発表された論文より一段と理解が進んだと言って良いだろう。

最後にこの研究では少人数のグリオブラストーマ患者さんに大量のビタミンC投与治験を行い、患者さんは高濃度のビタミンCの点滴に十分耐えることができ、これまでの文献から期待される抗がん剤と放射線治療以上の効果が得られることを示している。

臨床治験については、コントロールを設けた治験ではないため、新たに治験を進める必要があるが、グリオブラストーマの患者さんの50%生存期間が2年、一部の患者さんは4年近く生存するのを見ると、期待が持てる。基礎と臨床が橋渡しされた優れた研究と言って良いだろう。

最後に付け加えておくと、ビタミンCは全て点滴で投与しており、なんと60g以上投与する必要がある。この濃度は到底経口では到達できない。とはいえあまり強い副作用は出ていないことも驚く。

メカニズムは急速に明らかにされている。ぜひもっと多くの患者さんを使った治験が進み、この安価な治療が普及することを期待する。