ミツバチ(マルハナバチ)の高い学習能力(春休みの話題)

(写真:ロイター/アフロ)

生まれてから学習が必要な能力を、生まれつき持っている能力(本能)から区別するのは実は簡単ではない。その典型例が言語能力ではないだろうか。日本人家族の中で育てば日本語を学習し、ドイツ人家族の中で育てばドイツ語を学習する事は誰もが知っている。このため、言語は生まれてから学習すると私たちは考えてきた。しかし米国のチョムスキーは、他人にわかるように言葉を並べる統語能力は、学習に関わらず生まれつき備わっていると普遍文法を提案し、現在ではこの説が広く受け入れられている。

同じことは昆虫にも言える。ハチの8の字ダンスが蜜を発見したミツバチの情報伝達手段、即ち言葉であることを示し、ローレンツ、ティンバーゲンとともにノーベル賞を受賞したフォン・フリッシュだが、このようなハチの高次行動は本能だと考えられてきた。

ところがハチにも本能と区別できる学習能力があることを示す楽しい論文がロンドン・クイーンメリー大学のグループにより2月24日号のScienceに発表された(Loukola et al, Bumblebee show cognitive flexibility by improving on an observed complex behavior(マルハナバチは複雑な行動の観察に基づいて認知可塑性を高める), Science, 355:833, 2017)。楽しい研究で、春休みの話題にふさわしいと思い紹介する事にした。

研究は高校生の生物実験としても使える2種類のシンプルな実験システムを学習課題として考案した楽しい実験だ。

まず、巣を出たハチが自然に一匹だけ入ってくるように設計したハチを訓練するための実験台を準備する。なるべく自然の状態のハチを観察できるように心配りされている。

この実験台には小さな穴と、花粉に見立てた黄色い玉が置かれており、この玉を穴に上手く入れると褒美の砂糖水がもらえるようになっている。この訓練を繰り返すとハチは黄色いボールを穴に入れるようになるが、この時ハチの形に似せたフィギュアが黄色い玉を穴に運ぶ様子を横で観察させて、ハチが他の行動を見て学習するかを調べている。

結果は予想通りで、フィギュアの行動を見て学習したハチは、成功率が上昇し、また成功するまでの時間も短縮される。すなわち、他の個体の行動から学習することができる。

次に、他の個体から学習したことを、自分なりに処理し直して行動ができるかについて調べている。

この目的のために、今度は三叉路の中央に穴があり、それぞれの経路に3個の黄色い玉を置いてあって、どれかを穴に入れれば褒美がもらえる課題を使っている。面白いのは、それぞれの経路にある黄色い玉と穴までの距離がまちまちになるよう黄色い玉を置く。何も学習していないハチの成功率はもちろん低いが、動かす玉は穴から近い楽な方を選ぶ事が多い。ハチも楽をする。

そこで、最も遠い場所にある黄色の玉を穴に入れるように訓練したハチを使って、黄色い玉が運ばれるのを観察させる。あるいは、磁石を使って穴から最も遠い黄色い玉がハチから見て自然に穴に落ちる様子を観察させる。そのあとで、ハチが黄色の玉を穴に入れる事を学習するか、学習した後はどの玉を穴に入れるかを観察している。

まず、実際のハチの行動を見たハチの方が、自然に黄色い玉が穴に入るのを見たハチより成功率が高い。おそらく、これはハチの社会性を物語るのだろう。しかし、何も観察しない群と比べると、黄色い玉が自然に穴に入ったのを観察するだけで、成功率が上がる。極めて好奇心旺盛に脳ができているようだ。

最も面白いのは、どちらのケースでも、最も遠い玉が穴に入るのを手本として見たにもかかわらず、自分で行動するほとんどの場合、最も近い玉を穴に入れている。したがって、同じパターンをそのまま繰り返すのではなく、行動を自分なりに処理して楽な行動を選んでいる。

もちろん、複眼による視覚機能も考えて、昆虫の身になってこの現象を理解する必要がある。単純に楽な方を選んだと結論するのは危険だろう。しかし、この実験から、他のハチの全く新しい行動が脳内のイメージとして形成され、それにしたがって行動を変化させる能力があることはよくわかった。実験は簡単だが、今後面白い発展がありそうな気がする。ぜひこんな実験を高校生も考案して、論文として発表してほしい。優れた研究は、必ずしもお金がかかる研究ではない。