記憶力増強法を脳科学で検証する

記憶力だけでマンハッタンの絵を描く(写真:ロイター/アフロ)

ウェッブ上のBook検索サイトで「記憶力」と入力すると、記憶力を高める方法に関する本の数々がトップに並ぶ。実際多すぎて、どの本が役に立つのか選ぶのは難しそうだ。

しかし悩むことはない。できるだけ多くの物を覚えるための方法は、なんとギリシャローマ時代に既に考案され、長い歴史を経て現在もなお最も有効な方法として継承され、「method of loci(場所法)」とよばれている。この方法では、記憶するアイテムを、忘れることのない場所の記憶(例えば毎日通う職場までの経路に立っている建物など)と結びつけて覚え、思い出すときは今度は建物を思い起こしてからそれに結びついているアイテムを思いだす。少し難しく表現すると、「トレーニング時に私たちの記憶で最も信頼性が高い空間視覚記憶と、覚える内容を関連させ、内容を構造化することで記憶を確かにする」ことになる。

この方法が優れていることは、歴史的伝統だけでなく、多くの記憶力チャンピオンがこの方法を使っていることからわかる。すなわち、物を覚えるだけなら、正しい方法に基づく訓練を行うことが重要で、生まれつきの天才がいるわけでないことを示している。

訓練すれば記憶力チャンピオンに近づけることを証明するため、オランダ・ナイメーヘンのラドボウド大学のグループは、記憶力チャンピオンと、場所法で訓練された人の記憶力と脳活動を調べ、3月8日号のNeuronに発表した(Dresler et al, Mnemonic training reshapes brain networks to support superior memory(記憶力トレーニングは高い記憶力をサポートする脳内ネットワークを再構成する),93:1227, 2017,http://dx.doi.org/10.1016/j.neuron.2017.02.003)。

この研究の最大の特徴は、記憶力ランキングで世界トップの23人の脳を機能的MRI(fMRI)で調べ、この画像を基準に、記憶力トレーニングにより普通の人の脳が記憶力チャンピオンに近ずけるのかを調べている。

研究では、Memocampが提供しているトレーニングを一般の人に受けてもらい、訓練後に機能的MRIで調べることができる脳各領域の結合がチャンピオンに近づいたかどうかを調べている。この時利用された場所法に関するトレーニングプログラムの英語版はYouTubeで紹介されている

安静時のfMRIにより脳の71領域間の結合を調べ、普通の人と比べて記憶力チャンピオンで特に変化が大きい25結合をまず特定している。これは調べた全結合の1%に過ぎないが、最も記憶力テストの成績と相関している。

具体的には、内側前頭前皮質と右側の背外側前頭前皮質が結合のハブとなって、脳内各領域と空間視覚に関わる視覚野をつないでいる回路と表現できる(・・・と言われても実際にはなかなかイメージしづらい。空間視覚と結びつけるために必要な回路と考えておけば十分だと思う)

結果だが、Memocampが提供するプログラムを6週間続けると、72の単語を覚えるテストで、訓練前と比べるとなんと35単語分余計に覚えられるようになっている。しかもこの効果は4ヶ月間続いている。

恐るべし場所法!確かにこの方法は信頼がおける。

さらに驚くのは、このプログラムによる著しい記憶力促進が、記憶力チャンピオンで増強が見られる結合の増強と相関していることだ。

この回路を適切に訓練できれば、誰もが記憶力チャンピオンになれる!!。

ただトレーニング中に活性化しているのは各領域を結ぶ連結ではなく、視覚野、内側前頭前皮質、背外側前頭前皮質内の結合自体の活性だ。分かりやすく言うと、ハブ自体が発達することで結合が増強するというわけだ。

以上まとめると、脳科学は誰もが訓練次第で、脳構造を変化させ、記憶力チャンピオンになれることを示した。努力、努力!!