世界で初めて「補聴器の買い方」が米国で検証された

(写真:ロイター/アフロ)

私事で恐縮だが、40代半ばから特に右耳の聴力障害が始まった。補聴器の着用を勧められたが、着用になんとなく抵抗を感じて、結局現役時代は補聴器なしで過ごした。しかし、声によってはキャッチするのが難しく、多くの人に迷惑をかけていることを自覚して、現役をやめるのを機に補聴器を買った。結構高価なもので、オーディオグラム検査を繰り返して自分に合う様細かく調整してもらったおかげで、だいぶ人の声はキャッチできる様になり今は満足している。

自分が補聴器を使い始めてから、新聞などの補聴器の宣伝にも目がとまる。「よく聞こえるのにこの価格」といった様に、専門店で買うよりかなり安い。現代の技術水準からすれば通販で買うのもありかなと思ってしまう。

考えてみると、補聴器はどう選べばいいのか、消費者の目線で検証するのは難しい。様々な機械が出回っているし、一人一人症状が違う。医者の立場としては結局、「信頼できる専門店でよく調整してもらいなさい」というのが精一杯だろう。

しかし世界は広い。患者目線に立って補聴器の買い方について厳しく検証してみようと思い立った医師グループが現れた。

補聴器のお世話になっている身としてては喝采を送りたいと思った、インディアナ大学の医師グループがAmerican Journal of Audiologyに発表した、彼らの言う「世界初の補聴器の二重盲検無作為化試験」について紹介しよう。オープンアクセスなので誰でこの雑誌のウェッブサイトから論文をダウンロードできる

タイトルは「The effect of service-delivery model and purchase price on hearing aid outcomes in older adults: randomized double blind placebo controlled clinical trial(相談しながら提供する補聴器の販売方法とその値段が高齢者の聴力改善に及ぼす影響:プラシーボを対照に置いた二重盲検無作為化臨床試験)」だ。

全27ページ、図が17、表が11もある長い論文で、きわめて読みにくかった。しかし、随所に世界初の補聴器の二重盲検試験 (医療統計学的には最も厳しい基準で行われた調査)であることが強調されている。

研究の概要

使った機械:波長を細かく分けて調整することができる同じ3600ドルの補聴器を用意している。

対象者:6週間のテスト期間の後で補聴器を買うことができるという呼びかけを行い、約300人が呼びかけに応じている。この中で、難聴の原因や年齢などを慎重に検討し、最終的に約150人が選ばれ、治験が行われた。

プロトコル:対象を無作為化(完全にランダムに)して3群に分け、1群には面談しながら個人の聴力に合わせた補聴器、2群には面談と補聴器は同じだが、全く調整しない補聴器、そして3群には同じ補聴器を面談なしで、3種類の設定から自由に選べる補聴器を提供している。重要なことは、すべて使っている補聴器は同じで、誰が調整済みの補聴器を提供されているのかも、治験の計画者以外はわからなくした完全な検証だ。驚くことに、自分で調整する3群については、値段が3600ドルと告げられた群と600ドルと告げるグループを作って、値段によって聞こえ方が変わるかまで調べている。

現在補聴器がどの様に売られ、またそれを買う側の行動をよく理解して、綿密に設計した治験と評価できる。

結果

6週目に補聴器の自覚的効果を聞き、このまま買うか、返却するかを尋ねて、満足度を調べている。結果は以下の様にまとめることができる。

1) オーディオグラム検査で聴力の回復を客観的に評価すると、期待どおり、個人に合わせて調整してもらうと、正しく補正が出来ている。一方、3種類の設定の中から自分で設定を選んだ群では、音が大きい設定を選ぶ傾向がある。この設定では、騒音に対しては過敏になる。もちろん調整していない補聴器では全く改善はない。以上客観的指標で見れば、当然のことながら自分に合わせて調整してもらったほうがいい。

2) 満足度だが、個人に合わせて調整してもらった人のほとんどはほぼ満足し、6週間経った後、補聴器をそのまま買うという決断をしている。一方、全く調整しなかった対照群だけでなく、自分で調整した群も満足度は低くほとんどが、補聴器を買わなかった。

3) 買った後自分で調整する群で、値段を3600ドルと告げられた人も、600ドルと告げられた人も、自覚的な改善度は変わらず、ほとんどが結局買わなかった。

予想通り検査を受け、補聴器を買う時には各個人に合わせて補聴器を調整してもらうしかないという結論だが、これを確認するためここまで綿密な検証をよくやったと感心する。

高齢化社会では間違いなく補聴器の需要は大きい。対面サービスに基づく販売だと、価格はどうしても高くなる。実際の値段を見ると、欲しくても買えない人が多いのではと思う。この検証では当たり前の結果に終わったが、本当は自分で設定できる安価な補聴器も必要になると思う。是非そんな機械が開発されることを期待している。