最初の生物の姿を求めて:I 40億年前の細胞の姿

(写真:ロイター/アフロ)

以前ロンドンの自然史博物館を訪れた時、実際の化石と化石もどきを比べたり、波の力で海岸にできた模様と、生物の群体によってできた模様を比べて、生物が関与するプロセスが何かを考えさせる展示が行われていたのを見て、さすがダーウィンの国と感心した。

パストゥールがエレガントな実験で生物の自然発生の可能性を否定して以来、私たちは生物が生物からしか生まれないことを当たり前と思っている。しかし、もし地球上に生命がなかった時代があることを信じると(私はそうだと思っている)、どこかの時点でパストゥールのドグマが破れ、生物が無生物から生まれた。この過程を理解するためには、地球最古の生物について情報が必要だが、40億年も前にできた物質の成り立ちに生物が関与しているかどうか決めるのは至難の技だ。

現存のすべての生物の共通祖先、すなわち最初の生物にはLUCA(last universal common ancestor)という名前が与えられ、人数は多くはないが、様々な領域の研究者により研究が続けられている。

今日はロンドン・ナノテクノロジーセンターの研究者たちが、40億年ほど前の古い地層に潜んでいる細胞の痕跡を探した研究について紹介する。論文は3月2日号のNatureに掲載された(Dodd et al, Evidence for early life in earth’s oldest hydrothermall vent precipitates(地球最古の熱水噴出孔の沈殿物に存在する初期の生命の痕跡), Nature, 543:60, 2017 (doi:10.1038/nature21377)。

タイトルの中にある熱水噴出孔(Thermal Vent:サーマルベント)とは、マグマで温められた熱水が海底から噴き出している場所で、最近生命誕生を支える条件が整っている場所として注目されている。もしこれが正しければ、生命誕生時に近い40億年前後に活動していた熱水噴出孔によって出来た地層を調べれば生命(当然単細胞だが)の痕跡が見つかると期待できる。

この時代の地層がむき出しになっている場所としては、グリーンランドのイスア地方が有名で、東北大学の大友陽子さんによりこの地層に見られるグラファイトが生命由来ではないかという報告が行われている(この研究についてはJT生命誌研究館HPで紹介しているので参照して欲しい

今日紹介する研究では、イスアより古い38億年前から42億年前に海底の熱水噴出孔により形成された、カナダ北部にあるマグネシウムや鉄を多く含む地層Nuvvuagittuq supracrustal belt(NSB)から採取した標本を様々な角度から詳しく調べている。

専門的になるので、まず結論だけを述べると、「ほとんど生命誕生時に近い38-42億年前の地層に、細胞の形を顕微鏡で認めることができる。成分からも、生物がこの構造の形成に関わる可能性が高い。したがって、当時十分な量のバイオマスが存在し、鉱物に閉じ込められた時に、細胞が化石化して現在に残った」とまとめられる。

「本当?証拠を見せろ」と思っている人のために、根拠として著者らが提出したデータを紹介すると以下のようになる。

1) hematite filamentと呼ばれる、水晶の中にできた水酸化鉄から出来た2-14μmのチューブやフィラメントの存在。活動中の熱水噴出孔に吹き出したシリカ/鉄化合物にバクテリアが閉じ込められると、鉄を参加する能力のあるバクテリアによりチューブのような均一な構造が作られる。これ以外にも、様々なバクテリア由来と考えられる成分や構造がこの地層で見られる。また同じような構造が、もっと新しい熱水噴出孔による地層にも見られる。

2) ヘマタイト中にほとんど炭素分の痕跡のない鉄が存在することは、光合成とは異なるメカニズムで光を使って炭素を調達するPhotoheterotrophの作用と考えると説明できる。

3) ヘマタイトの中に、内部に炭素を多く含む物質で満たされ、炭酸塩で出来た50-200μmの細胞様のロゼット構造を認める。現在活動中の熱水噴出孔についての研究から、このロゼット構造がバクテリアのフィラメントの近くに形成されることがわかっており、おそらく同じことが38億年前にも起こっていたと考えられる。

4)炭素同位元素を用いた検査で、生物由来の炭素が認められる。

5) 磁鉄鉱の壁で出来た粒子状の構造物(Granuleと呼んでいる)が存在するが、同じ粒子は他の熱水噴出孔由来の地質にも認められる。

このように、生物が関与したことを決めるためには柔道の「合わせ技一本」のように証拠を組みあわさざるをえないのが現状だ。それでも生物誕生を知るためには、今後も新しい地層を求めて研究を続ける必要がある。なかなか皆を納得させることは難しく、今後も議論と研究は続くだろう。しかしもし37-42億年前、十分な量のバイオマスがすでに存在していたとすると、生命誕生時期は一体いつか?当分は40億年とすることにした。