肥満税を考えてみる

(ペイレスイメージズ/アフロ)

高齢化に伴って医療費の高騰に直面しているのは我が国だけではない。最近のオプジーボの薬価をめぐる大騒ぎから明らかになったように、この問題を薬価の見直しなど小手先の医療費抑制で解決しようとしても限界がある。

医療制度にかかわらず、この問題の解決の切り札は病気の予防しかない。先進各国では医療費を抑えるため様々な施策が打たれてきた。ワクチン接種はこれまでも、そしてこれからも最も重要な分野だろう。成功したもう一つの例として、世界的に進められたのが喫煙者を減らすための様々施策を挙げることができる。この目的のため、煙草に高税をかける消費抑制と、喫煙場所の制限が2本柱として行われてきた。

振り返ってみると、私が大学を卒業した頃、タバコは150円程度で、驚くことに医者が診察室でタバコを吸うことまで許されていた。しかし、今は病院の敷地内は禁煙、タバコは400円になっている。北欧では1000円近くのはずだ。この結果我が国でもピーク時から見て消費本数は半減している。

ただ、高齢化する社会で次に問題になる病気の多くは高血圧、糖尿病、高脂血症など生活習慣病が基盤になっている。国民の生活習慣を改めようと各国で様々な取り組みが行われてきたが、各個人にとって運動を心がけ、低カロリー、低脂肪、高繊維食へと食習慣を変えることは簡単ではない。

今年から米国NIHは国民の健康維持には、国民の心や行動を変化させることが必要だと、行動学、社会学の研究プロジェクトをスタートさせた。長期展望に立った施策と高く評価できるが、研究の成果が上がるには時間がかかる。

これに対し、幾つかの政府では、砂糖、脂肪、塩を多く含む食品に税をかけて、そこから得られる税収を医療費に移すと共に、国民全体の砂糖や食塩の摂取を減らす試みが始まっている。このさきがけを切ったのがデンマークの脂肪税だが、消費者が簡単に周辺の国に買い物に出かけられる問題を解決できず、中止に追い込まれている。一方、英国では来年から砂糖を多く含む飲料や食品に課税することを決めた。

当然賛否両論あるが、議論のために税導入の効果を調べるためのシミュレーションが行われている。その例として今日はオーストラリアメルボルン大学のグループがPlosMedicineに発表した論文を紹介しよう(Cobiac et al, Plos Medicine,2017)。オープンアクセスなので、ウェッブサイトから自由に閲覧できる。

この研究はもしオーストラリアで同じような税を導入したらどのような効果があるをシミュレーションしている。タイトルは「Taxes and subsidies for improving diet and population health in Australia: A cost-effectiveness modeling study(オーストラリアの食生活と健康改善のための税と補助金:費用対効果モデル研究)」。

1)飽和脂肪酸食品税(100グラムあたり1.3ドル)、2)過剰食塩税(1gあたり0.3ドル)、3)砂糖含有飲料(1リットルあたり0.47ドル)、4)砂糖税(100グラムの砂糖あたり0.85ドル)、そして5)果物や野菜消費に対して100グラムあたり0.14ドルの補助金、の5種類の税や補助金を単独、あるいは組み合わせて導入した時、「DALY」と呼ばれる病気により失われる年数、医療コストの低下などを計算している。最後の補助金は、消費を健康食品に向けたいという構想だ。

シミュレーションの妥当性については私は門外漢で判断できないが、結果はあらゆる税がDALYと国民医療費削減に寄与する一方、野菜や果物の消費をあげる補助金の影響は少ないことを示している。

また、税の中では砂糖税が最も大きな効果を上げるだろうと予想している。中でも重要なメッセージは、野菜や果物に対する補助金を他の税、特に砂糖税と組み合わせると、国民の健康に大きな効果が期待できるという結果だろう。これは、例えば砂糖税で甘いものの食品消費が減る時に、つられて野菜の消費も同時に減ることを防ぐ効果があるとしている。

この論文の価値は結果の詳細ではなく、可能性を検討し、結果を政府に提言して政策に生かそうとしている点だ。我が国でもこのような試算を一度行ってみたらどうだろう。

もともとタバコやアルコールは特別な課税が行われており、この税は国民の健康に寄与している。テクニカルには難しいかもしれないが、医療費高騰で保険制度の足元がフラフラしている我が国こそ、同じような税を砂糖や脂肪に対して設計して、それをそのまま健康保険にまわして、医療費を減らすことを真剣に考えてみてもいいような気がする。