全く門外漢の私だが、自閉症の研究には特に興味を持って論文や本を読んできた。印象を一言で表すと、実に様々な実験的研究が行われている。なかでも、次世代シークエンサーなどのゲノム解析手法の開発が進んだおかげで、自閉症発症に関わる遺伝子を探索するゲノム研究は急速に進展したように思う。ただ候補遺伝子が特定されても、そこから行動変化に至るまでの過程を説明することは難しい。身体的疾患なら動物モデルを使って研究できるが、自閉症を研究できる動物モデルには限界がある。人間で遺伝子と症状の間を埋めたい場合、生理学的研究とともに、細胞・組織レベルで自閉症特異的な変化を見つける必要があった。

この意味で、一昨年7月、イェール大学のグループが発表した論文は画期的だった(Mariani et al, Cell, 162:375-390)。

この研究では、自閉症児からiPSを樹立し、このiPSから3次元の脳組織を試験管内で作らせ、正常児由来組織と比べている。驚くことに、自閉症児由来組織では神経細胞増殖が長く続き、GABA作動性の神経細胞が余分に作られる。

同じ結果は昨年7月ソーク研究所のグループにより確認された(Marchetto et al, Molecular Psychiatry, doi:10.1038/mp.2016.95)。さらにこの論文では、細胞が余分に作られるという試験管内の結果に対応して、患者さんの脳体積の増加が起こっていることが示された。

大脳皮質の構造は脳室近くに存在する幹細胞がまず水平に分裂し、その後この幹細胞から作られた分化細胞がラディアルグリアと呼ばれる細胞に沿って垂直に移動することで分化細胞が縦に並んだ皮質を形成することがわかっている(私がJT生命誌研究館に書いたブログを参照してください)。このことから、自閉症の脳発生過程では神経幹細胞の増殖が余分に続き、その結果皮質表面が拡大し、脳体積が増大している可能性が考えられる。

この予想は、ノースカロライナ大学を中心とする米国・カナダ合同チームから発表された最近の論文により裏付けられた(Hazlett et al, Nature, 542:348-351)。

同じグループは以前から、自閉症児では脳の体積が増大していることを示唆する論文を発表していた。この研究はこれまでの研究の延長だが、今回は自閉症リスクの高い子供の脳の成長度を、6ヶ月齢というまだ自閉症の発症していない早い時期から、12、24ヶ月とMRI検査を行いながら自閉症を発症するまでを追跡したのが新しい点だ。

研究の概要だが、米国、カナダの4センターで個別に、自閉症を発症した兄弟を持つ高リスク乳児318人、及び兄弟・親戚に自閉症発症が見られない低リスク乳児117人をそれぞれリクルートし、6ヶ月、12ヶ月、24ヶ月齢時点で、自然睡眠時にMRI検査を行うとともに、自閉症診断基準ADOS-WPによる診断と、社会性についての診断基準(CSBS-DP)による検査を行っている。

乳児のMRI検査で完全なデータを採取するのは難しいため、予定の検査を全て終えることができた子供は、最終的に高リスクグループ106人、低リスクグループ42人に減っている。自閉症の発症については24ヶ月時点で、ADOS-WP基準にのっとって調べ、驚くなかれ15人が自閉症と診断されている。実に13%の発症率で、自閉症に強い遺伝性が認められることがわかる。

こうして得られた高リスク・自閉症発症群(1群)、高リスク・自閉症非発症群(2群)、低リスク・自閉症非発症群(3群)のMRI画像を比べ、

1) 6ヶ月の脳体積は各群で大きな違いはないが、12ヶ月にかけて1群のみで脳体積の著名な増加が認められること、

2) 皮質の厚さについては各群で差がないこと、

3) 脳全体が増大するのではなく、感覚に関わる両側の後頭回、右側楔状葉、そして右側舌状回と呼ばれる領域の増大が著しいこと、

4) 脳体積の増大の程度は、ADOS-WP及びCSBS-DPで測った行動や社会性の診断スコアと強く相関すること。

を明らかにしている。

最後に、脳画像と行動スコアについてのデータをコンピュータに学習させ、最終的に6ヶ月と12ヶ月齢の2回のMRI検査により、81%の確率で高リスク群の自閉症発症を予測できること、及び97%の確率で自閉症でないと診断できることを示している。

この結果は、細胞レベルでわかってきた神経幹細胞の増殖が自閉症では持続するという結果と一致するだけでなく、生後6ヶ月までの脳の成長は正常児も自閉症児もほとんどかわりなく、6ヶ月齢からの半年が重要な時期であることを示した点、さらにこの時期のMRI検査で自閉症を予測できる可能性を示唆した点で重要だ。

先に述べたソーク研究所の細胞レベルの研究では、試験管内でIGF-1を加えると細胞の余分な増殖が抑制される可能性が示されており、今後6ヶ月から12ヶ月にかけて、早期診断および治療治験を行う可能性も出てきた。

この変化が何を意味するのか?うまく表現できないが、幹細胞や再生医学を研究していた経験から言うと、今日紹介した研究は大きな手がかりを与えてくれているように感じる。もちろん次の一手はそう簡単でないだろう。それでも、細胞の過増殖が原因なら、すでに成長期を過ぎた患者さんには役に立たないかもしれないが、これから発症する子供たちに使える治療法が開発される日が近々くるのではと期待している。