大麻の青少年への影響

(写真:ロイター/アフロ)

Yahoo個人ニュースでも、個人の大麻使用について、これまで通り完全禁止を続けるべきか、一部を合法化してもいいのか、様々な意見が述べられている。私の印象では容認意見が多いように思うが、その主な理由として、

1)医療用大麻は多発性硬化症の痛みを始め、様々な神経症状に有効であること、

2)厳しい法的制限はあるものの、大麻の個人使用を許可する国や州が存在し、数が増えていること、

3)犯罪集団による大麻の売買を阻止することができること、

4)他のドラッグと比べ習慣性がなく、タバコやアルコールと比べても「安全性」は高いこと、

などが挙げられている。

一々もっともだが、相対的安全性をその理由に加えるのには待ったをかけたい。大麻の脳への影響についての研究は多い。問題ありという論文が圧倒的に多いが、問題なしという論文も存在する。それぞれを勝手に参照して、安全だ、危険だと議論しても水掛け論で終わる。このような場合、私たち専門家はまず「総説」を参照する。すぐれた総説は、これまで発表された信頼できる数多くの論文に目を通し、賛否両論を十分考慮した上で、一定の見解を示してくれる。実際、私たちのNPOが続けてきたニコニコ動画やYoutubeによる、病気についての患者さんと行う読書会では、私があらかじめ過去2-3年に発表された総説を読んで、これを参加していただいた患者さんに紹介している。

幸い大麻の安全性と規制政策を扱った総説論文を最近目にした。Policy Insight from the Behavioral and Brain Scienceという、行動学、脳科学の立場から政策提言を行うための雑誌に掲載されており、タイトルは「Marijuana on the mind? The impact of marijuana on cognition, brain structure, and brain function, and related public policy implication (マリファナは精神に影響する?マリファナの認知機能、脳構造、脳機能に対するインパクトと政策に対する示唆)」だ。今日はこの総説をしっかりと紹介したい。

総説の概要

大麻使用の歴史(米国)

大麻の使用が最初に記載されるのは漢方で、なんと紀元前2700年のことだ。

米国では1900年ぐらいに娯楽のための個人使用(recreational use)が始まったが、なぜか禁止する意見が強まり、多くの州で禁止され、医薬の処方集からも削除され、最終的に習慣性のある危険薬物と認定される。とはいえ、米国ではその規制はゆるく、違法とはいえ個人のマリファナ使用が続いていたことは周知の事実だ。この違法使用の経験から、幾つかの州でマリファナ使用を合法化する動きが広がり、1996年、カリフォルニア州を皮切りに、医療用の使用が許可され始めた。現在28州とワシントン特別区で医療用についてはあらゆる形態のマリファナの医療用使用が認められ、さらに17州では医療用にパッケージされたマリファナに限った使用が認められるようになった。この動きはさらに広がり、ついに8州とワシントンでは個人の娯楽のための使用まで合法になっている。

米国でのマリファナ使用の現状

過去1ヶ月以内にマリファナを使用したことがあるかという問いに対し、米国ではなんと2200万人がイエスと答え、マリファナが危険でないと思っていることが明らかになっている。事実、高校上級生の半分はマリファナは危険でないと信じており、毎日マリファナを使用する率は6%に達し、5.5%の喫煙率を越している。また、毎日ではないにしても22%はマリファナを常用している。

おそらく、大麻はタバコより安全として解禁すれば、わが国でも同じような状況が生まれると予想できる。

マリファナの脳科学

私たち人間はカンナビノイドと呼ばれる物質を分泌して神経細胞の増殖を促進し、シナプス結合を調整して、神経の可塑性や安定性を維持している。これには、CB1,CB2の2種類の受容体が関わっているが、マリファナの主成分THCはCB1と強く結合して神経細胞を興奮させる。

神経細胞の増殖やシナプス結合の調整を伴う脳の発達にカンナビノイドが重要な働きを演じているなら、THCを介する強い刺激は脳発達に影響があると考えられ、特に発達期にある高校生の使用の現状は大いに懸念される。

マリファナの脳機能への影響

マリファナ常習者の認知機能低下については、ほとんどの論文が一致している。中でも、目標を達成するため計画をたて、その遂行のために自制し、気持ちを高めるといった高次の行動力が低下する。事実医療の世界では、この能力の低下がみられる患者を見たときマリファナ使用を疑うことすら示唆されている。

同様に、記憶障害、中でも言葉による学習や記憶能力が低下することについてはほとんどの論文が一致している。一方、視覚による空間認識記憶などはあまり影響されない。このため、どの記憶テストを用いるかにより、結論が変わることには注意が必要だ。

IQについても研究があるが、IQ低下が原因か結果かを特定することは難しい。一卵性双生児についての研究ではマリファナ使用の影響は認められないという結論になっている。

MRI検査

マリファナの影響をMRIで調べた研究は増加している。しかしこの総説を読むと、マリファナの影響を明確に特定することは難しいようだ。あえてこれまで発表された論文から傾向を読むと、受容体の一つCB1の発現が高い脳領域では神経細胞が集まる灰白質の萎縮が起こる。

数は少ないが、機能的MRIを用いた論文も発表されており、記憶、決断力など幾つかの課題に対する脳の様々な領域の活動の低下見られるようだ。

その他の注意点

思春期にマリファナを始めると、機能的にも構造的にもマリファナの脳への悪影響が出るだけでなく、常習化しやすいことが示されており、少なくとも未成年には厳しい規制が必要だ。

他にも、マリファナは決して一種類ではなく、それぞれ成分が大きく異なっている。今後の調査は、使用されているマリファナの種類まで踏み込んで調べることが必要だろう。

また、娯楽的使用が認められて以来、マリファナに含まれるTHJの量が約2倍に上昇していることは、使用者がより強い効果を求めていることを示している。習慣性を考えるときに重要な指標になる。

以上この総説を私なりにまとめてみた。

私の個人的意見

この総説を読んだ上で、私の個人的意見を述べると、マリファナには鎮痛効果に加え、小児の難治性てんかん発作を抑える効果など、他の方法では得られない効果がある。したがって、医師の処方に基づく大麻使用は是非許可して欲しいと思う。ただ使用形態や方法など、まだまだテクニカルな問題は多く、まず規制下での研究が重要だと思う。

一方個人の娯楽使用については、脳への悪影響があることはほぼ確実であると考えればいい。すなわち、「疑わしきは罰する」の考えだ。さらに、また解禁は間違いなく青少年の使用を促すことを考えると、現在の法規制を変更しようという大きな世論が湧き上がらない限り、わざわざ現行の規制を変更することはないと思う。